「死んでしまうとは何事だ!」
聴き慣れたフレーズが飛び交う。
それを右から左に聞き流して、ついでとばかりに本日の報告をする。
王は頷きつつ、その報告を本に記録し、その記録に沿った呪文を唱える。
その呪文の名は【ふっかつのじゅもん】である。
その呪文を唱えると何が起こるのかわからないが、その呪文はとても言語化が難しい。
複雑すぎて、一度聞いただけでは覚えられないのである。
興味本位ではあるが、一度メモを取り試してみたいものである。
「すみません。もう一度お願いできますか?」
試しにとメモを取ろうと聞き耳を立てていたが、全部をきちんと聞き取れなかった。
「また聞きたいのか?」
不思議そうに聞き返されたが「お願いします」と頭を下げる。
「うむ」
咳払い後、再度、呪文を唱える王。
その呪文は先程と違う文字の羅列だった。
一瞬硬直する。
まさか意識していなかったが、この呪文は毎回同じ呪文ではなく、聞くた度に変わるのだ。
元々、意味をなさない文字の羅列である。
いや、己がそう思っているだけで、ちゃんと意味があるのかもしれないが、理解できない。
流石にもう一度と願うわけにもいかないので、今回はその場を後にする。
何度目かのチャンスを得て漸く取得した【ふっかつのじゅもん】
何度『じゅもんがちがいます』と言われただろう。
微妙に分かり辛いのだ。
【りぢぢほこ らるだろわられ
ぶひながら くです】
早速唱えた。呪文は間違っていないはず。
なのに何も起こらない…。
どういう事だろうか?
何の意味もなさなかったのだろうか。
落胆するしか出来なかった。
もう一度唱えようと思ったが握りしめていたはずのメモした紙がいつの間にか無くなってしまったので唱えることができない。
もう、何も起こらない曖昧の状態に興味が根こそぎ取られてしまった。
玉座の間で嬉々として唱えたのが恥ずかしい。
怪訝そうに見ないでくれよ。
散々後回しにしてきた竜王に挑む。
「わしの味方になれば、世界の半分を其方にやろう」
魅力的な言葉に思わず「はい」と答える。
そうすると嬉しそうに【ふっかつのじゅもん】をゆっくりと教えてくれた。
今度こそ何か起こるのだろうか。
期待と不安に苛まれながら呪文を唱える。
【ぬほざまも らろづびびえく
したとねふ ぢいか】
世界が赤くなり、視界が暗転する。
己の世界が閉じていく音が聞こえた。
次の瞬間目の前には王がいた。
あれ、いつのまにここに来てたのだろうか?
ここで己は何をしていたのだろう?
怪訝そうにしている王様に話しかけると面白い呪文を唱えてくれた。
その呪文の名は【ふっかつのじゅもん】
どんな効果があるのか、よくわからないがいつか覚えて唱えたいと思う。
「では王様、竜王を討伐に向けて行ってきます」
【ふっかつのじゅもん】
完