からっぽの世界で - 1/2

好奇心は猫を殺す。

 

 そんなつもりではなかった。
彼を傷つけるつもりはなかった。
後悔してももう遅い。

 何もない島にたった一人佇んでいた彼。
破壊衝動に苛まれ、幾多のモンスターの骸を超えてきた無邪気な少年。
物を作るという初歩的なことができない不思議な男である。

 己と彼の違いはいくつもあげられるが、共に何もない島に町——いや国を作ろうとしている最大の相棒であることは間違いない。
共に歩むことを疑っていなかったし創造と破壊は紙一重であるから、物資調達はすごく役に立っている。
確かに物を必要以上に収穫したり『これも必要か?』といらないものまで持ってきたりと、彼の少しずれた感覚に呆れることは何度かあった。
だけれども、モンスター退治など、強敵相手に目が輝いている姿を見ていると己も嬉しくなる。
自分のできることをしている時の満面の笑みは格別であった。
人の役に立つことが最大の喜びであるようだ。

そう、これでも信頼して、信用していた。

 

 ただ、ほんのちょっとした好奇心だった。
冗談のように、だけれども少し期待して…別に彼が裏切るとか、悪いモンスターであると疑っていたわけじゃない。
記憶もなく、昔のことを覚えていない彼は一体、どんな存在だったのかと。
人とは少し違う真紅の鋭い目、尖った耳、笑う時に見える鋭い犬歯。

 真実を映すと言う鏡なら、多少なりとも手掛かりが得られるのではないか。
そんな些細な好奇心。
結局その鏡は何も映すことはなく、彼に悲しそうな表情を作らせただけであった。

「お前がそんなことするなんて信じられない」

 そう、この好奇心は彼の心を傷つけた。
ごめんなさい。
そんなつもりではなかったと何度も謝罪した。
しかし、忙しないモンスターとの攻防の中、そちらの対処に追われて、中々互いにゆっくりと話し合う時間がなかった。
表面ではそれなりに元の態度に戻っていたから、少し安心してしまっていた。
しかし、一度ついた疑心は彼の中で解けることはなかったのだろう。

 

 己と彼の関係に追い討ちをかけられるように、周りの波に飲まれて、騙されると言う形で彼を牢屋に閉じ込めてしまった。
しかもその牢屋を作ったのは己自身であった。
やられたと思ったがもう遅い。
何度、交渉しても取り合ってくれず。
疑いが完全に晴れるまで彼は牢屋から出ることができなかった。

 こうなったのは全て魔物の所為と言えるが…彼の心は閉ざしたままである。
そうじゃないと叫ぼうが、違うと喚こうが、もう、己の言葉は彼に届くことはない。

 

 そう、たった一つの好奇心で彼との絆を己は壊してしまったのだ。

 

「ごめんなさい」

 

 ただひたすらに謝り続ける。