魔法と呪文

「最近、気になっていることがあるのよね」
 退屈な石版探しに嫌気がさしたのか、ツボを漁っている少年の横で椅子に座り、前後の脈略のない言葉を発した。
「マリベル…何?」
 これは休憩だなと、額の汗を拭いながら少女——マリベルの方を見る。
「アルス! これなんて言う?」
 目の前に火球魔法であるメラの炎を指先に出して問う。
もうそこまで使いこなしているのかと感心する。
「メラ?」
「そうじゃないわよ!」
 結論が出ないイライラか、意図を組んでくれない相手へのジレったさか、その指先の炎を大きくしてメラを少年——アルスの方に放つ。
「危ないよ」
 飛び退くように足下に放たれたそれを避ける。
正確に呪文を素早く唱えるとは、やはりマリベルには魔法使いの才能があるのかもしれない。
「もー! アルスはメラのことなんて言うの?」
「メラ以外で?」
「そーよ!」
 これ以上、イライラさせると周りにも被害が及ぶ。
疲れも相まって鈍い思考をフル回転させる。
「…魔法?」
 ロクな回答を思いつかなかったがその回答で満足したようだ。
「そういうわよね! でも呪文とも言わない?」
「あー…」
 確かに『呪文を覚えた』って言った気がする。
成る程と同じ疑問に達したアルスの表情を見て、満足そうな笑みを浮かべて熱弁する。
「魔法使いが呪文を唱える。出てくるのは魔法なの? 呪文なの?」
「わかんないよ」
 覚えているホイミという回復魔法を思い浮かべるがよくわからない。
「ちゃんと考えなさいよね!」
「そんなこと言われても、疑問に思ってなかったから…」
 困った顔をするとマリベルが呆れを通り越して軽蔑の目を向ける。

「おーい。石板見つかったか?」
 アルスが謝罪を口にする前の分かれて探していたキーファ達が戻ってきた。
「俺は一つ見つけたぜ」
「今はそれどころじゃないの!」
 石板のかけらを見せようとしたキーファに、マリベルはピシャッと一刀両断する。
「なんだ何だ?」
 そばにいて見つけたことを褒めてもらえると思っていたガボも驚きで皆の顔を順番に見つめる。

 マリベルは話が進まないことにイライラしながらも、疑問に思った経緯を説明する。
「呪文とか魔法とか、どっちでもよくね?」
「これだから何も覚えない脳筋は役に立たないのよ!!」
 気にしている事を指摘されて、グッと押し黙る。
「まあまあ、マリベル落ち着いて」
 アルスはまた爆発しそうになる彼女をなだめる。

「おいら、そう言うのわかんないけど、放つ言葉が呪文で、種類が魔法だと思うぞ」
「え?」
 思わぬところからの解決策が出てきたので、一同、一斉に発言者のガボを見る。
「そんな事をかーちゃん言っていた気がするぞ」
 かーちゃん。
会ったことはないが、とても知的そうな印象を受けるので、その彼女から教わったと言うのなら、信憑性はある。
「なるほどね。確かに納得する部分はあるわ」
 マリベルが満足そうにうなづく。
「メラという言葉が呪文ね。で、放った攻撃自体のことを魔法。つまり、魔法を呪文で出すっとことね。それなら納得だわ」
 悩みが解決したとうんうんと復唱している。
アルスやキーファはまだ理解し切れていないが彼女の機嫌が良くなったので、これ以上は詮索しないでおこうと誓う。

「ほら、石版見つけたんでしょ。さっさと行くわよ!」
「お前が脱線させてただろ!」
 このキーファ達が見つけてくれた石版で次の冒険には行けそうだ。
早速、行こう。
「次は何の町かしら、ロクな場所がないから今度こそ素敵な町に行きたいわ」

【魔法と呪文】