どいつもこいつも

「却下却下却下!」
 入部希望者にアンケートを取ることにしたティエは積み上げられた紙を読むたびにバツを付けていく。
あまりにあんまりな感じの動機で辟易していた。
興味を持たれるのは有り難いことではあるが、冷やかしは御免である。
確かに、一連の事件で冒険部の活躍はあったかもしれないが、ただのお上りな動機はいらないし、他の部活併用でも構わないが、自分の名声の為とかなら、こちらからお断りである。
 
「上から目線ってのも気に入らない」
 新しい部活でよく起こる部活潰しを趣味とする連中も居たりする。
部活を設立させやすい反面、維持していくが大変なのもそれに起因する。
大体は、一代限りの部活ってのも多い。
ティエは別に一代限りでもいいと思っているのでそこは問題ではないけれど…。
「お困りのようですね」
 一応書類の分けるのを手伝ってくれている部員二号こと、ナインは何気なく手に取ったアンケートと言う名の振り分け用紙を見る。
ちなみに部員一号であるローレは居ない。
 
「僕が思うにこの人は冒険をしたいというよりも、魔具を使って遊びたいという感じでしょうね。確かに魔具は規制が多くて危険じゃないものでは物足りないという感じではありますが、中々の好奇心ではありませんか?」
 ナインは首を傾げているが、冒険部の趣旨を把握していないと首を振る。
「確かに興味を持ってくれているのは嬉しいけど、私の最終目標は冒険で未知なる場所に行くこと、魔具で遊んで満足されちゃ困るわけ」
 それなら、魔具研究している部活があるからそこへ入ればいい。
 
「そのあたりを考慮するとなると、はやり必要になってくるのは戦闘能力でしょうか?」
「戦闘能力だけでは、その場で対応できる応用力とか判断力とかかな?」
 真剣に考えだしたナインにつられて、ティエも冒険に連れていくPTならだれがいいかと言う方向に思考が行きかけたが、いや今は部員確保の方だ先だということに気づき、中断する。
選り好みしていてはしょうがないと思いつつも、幽霊部員やこのまま来なさそうな人ばかりでは困るのだ。
ナインと言う人材が稀有のような気がしてきた。
彼自身が稀有な存在なのは確かだが、それよりも自分の論理話についてこれる逸材なのが嬉しい。
彼自身の興味の範囲がめちゃくちゃ幅広く、ティエの興味以外の場所でも発揮されているようなのは、今まで言動から把握できた。
「うーん。十か条ぐらい作るべきか…」
 改めて、部活について考えだすと止まらない。
 
 そうこうしていると、勢いよく部室の扉が開いた。
視線を移すと、嬉しそうなに何かを手に持っているローレがいた。
「ティエ、照り焼き好きか?」
「照り焼きとは、醤油を基本にした甘みのあるタレを食材に塗りながら焼く調理法ですね。別の場所では専用のソースをかけて食べる手法のことを言いますね。ですが、この形状の場合、前者が当てはまります」
 ローレが持ち込んだ食材をのぞき込みながらナインは解説する。
見た感じ魚の照り焼きであることは分かる。
ただ、切り身としては何というか大きなものを小分けにしたような感じであり、何の魚か見当がつかない。
「プテカルピスを釣ったんだ!」
 目をキラキラさせて報告された。
「プテ…? もしかして、プラテカルプス?」
 釣ると言う単語と有名な話を思い出して、名前を推測する。
釣り部の存在を知っていたら、何となく噂となっている伝説の主の名前である。
 
「プラテカルプスと言えば、モササウルス科に属す海生爬虫類とされていてトカゲやワニに似ていると、言われている古代魚ですね。釣れる場所など判明しておりませんから、かなりレア魚と言えます。主にイカとかアンモナイトを主食としていたようですが…」
 っと、つらつらと魚の詳細をナインが解説しだす。
「そうなのか! 皆で生簀から釣ったんだ」
「そう言えば、釣り部でそんな伝説の魚が設立当時からいると言われていたが…」
 確か、釣り部で釣ろうとしていたが、中々逃げられてしまい、幾度となくしている挑戦が失敗していると聞いたことがある。
ローレも一緒に釣ったのか…。
「それで、これがその魚を照り焼きにしたやつだぞ」
 これがそれの残りだと渡された。
そして、料理して食ったのか。
 
 伝説の魚いやトカゲとやらは殺していいものなのか?
せめて標本とか…いやまあ、釣り部がいいと言ってやったようなので、これ以上気にするのは辞めよう。
 
「ありがとう、有難く頂くよ」
 量からして、ナインの分も十分にあるので、後で分けて食べよう。
「おう!」
「用件はそれだけ?」
 もうすぐ夕暮れである。
部活を終え、ちらほら帰る学生も増えてきているだろう。
 
「あ! えっとそうだ。これ返さなきゃ」
 っと、手渡されたのがこの前使用した魔改造した稲妻の剣である。
ルアムに誘われる前にローレが部室で待っていた理由はティエにこれを返そうと思っていたからである。
「なんか、きちんと申請しろって言われたぞ」
 武術科の実技の時にうっかり使って、怒られたことをローレは思い出しながら、腰に携えていた稲妻の剣改を手渡す。
「あー…して置く」
 基本、魔術科の生徒であれば、多少の危険物の取り扱いには問題はないが、その制作後にきちんと、どういう物を作ったか、それはどういった効果があるか、どう言う時に使用するか、と言うのを申請しないといけない。
あまりに危険なものは魔術科のマホトーン箱と呼ばれる魔封じがされている厳重庫で保管されることがある。
その鍵は教師しか持っていない。
まあ、ローレのは使う人によっては危険だが特に取り扱いが難しいとかではないし、申請するだけでいいだろう。
一度、武器を受け取り、作った経緯と結果を示す報告書を制作しなくてはいけない。
メンドクサイ。
 
「あ、あと、謎は謎で面白いけど興味なくて、それでも部活には行っていいのかってルアムが言ってたぞ?」
 色んな事を一度に詰めもまれたらしいローレが必死になって思い出しているようだ。
(ルアム君…多分ローレ君に伝言係は向いてないと思う)
 っと、秘かに思うが、取りあえず彼の言い分はなんとなく理解した気がする。
釣り部と知り合いであるうえで、さらに何か意図をもってローレを誘ったのだろう。
「釣りは楽しかった?」
「おう! 壊れ難い釣り竿を用意してもらったぞ!」
 よく破壊する彼がここまで楽しめたのならルアムのエンターテイナーはほぼ保証されただろう。
でも、何故連れて行ったか、それも冒険部の部員であるローレを誘ったのかが気になる。
まさか、引き抜いて廃部に追い込むつもりかと邪推する。
俗にいう部活潰しである。
何をもってルアムがそれをしたいと思うかは別であるが、ティエがルアムを欲する理由は、何も謎を解明するための補佐として欲しいわけではない。
人脈、噂、逸話などなど、多くの情報とコネを持っている存在が部員となってくれることが部活動を行いやすくするはずだからである。
冒険部の今後の活動についての互いに認識の違いをすり合わそうという形なのだと推測する。
 
「やはり、これは一つのレポートを制作する必要がありそう」
 ティエはほくそ笑み、今まで見ていたアンケートを横に頰りだし、個人向け汎用電子機器を取り出す。
「ナイン君。知恵を貸して…絶対に認めさせてやる」
 起動し、文字を打ち始める。
「存続の危機ですね。僕の知識よければ、何なりと!」
 ナインもティエのスイッチが入った起因は分からないが、出来ることならば全力で協力すると、意気込んでくれた。
部活の魅力、謎をなぜ解明したいか、解明する先を欲しているわけではない。
新たな謎を欲しているだけに過ぎない。
「?」
 自分の発言でとんでもない勘違いをされていることに気づかないローレだけは首を傾げるしかなかった。
 
「おれはどうしたらいい?」
「そういえば、キラナさんが居ませんね」
 アンケートにも答えた形跡がない事にナインは気づいた。
「呼んで来ればいいだな?」
 戦力外通告を受けたローレは部員になるかすらわからないキラナを呼びに出かけるのであった。

続く