冒険部始動

 使われなくなった一室を冒険部の部室へと変えたティエは全校に配ったポスターの原画を眺める。
「やはり、ポスターだけでは誰も来てくれるわけが無かったか」
 大筆を使っておどろおどろしく堂々と書かれたポスターには、何処かオカルトさが見え隠れしている。
大タイトルは『レッツゴー冒険部!』
すぐ下には『来れ研究対象、研究家』
 と黒い墨で書かれている。
掠れ具合も相まって何されるかわかったものではない。
ティエ自身は自覚はないが、見た目がある種のマッドサイエンティストを彷彿とさせている。
白衣に墨で汚れた後が残っている所為でもあるだろう。
白衣を着て揮毫するものではない。
一度、付着してしまった墨は洗っても落ちない。
  
「研究対象ってのも変な言い回しだったかな?」
 かと言って依頼と言うのも変だし、気軽に信憑不明な噂を持ち込んで欲しいと言うのもある。
人体の神秘、個々の種族の差も解明されていないのも確かだ。
人体研究も楽しそうではある。
現にローレをそれで撒き混んでいる。
だが、最終目標はそこではないのだ。
ロマンを求めて飛び出したいのである。
 冒険部と言う名前にしたのは、学園の外の世界に目を向けて欲しかったからであって、決してピクニック気分で入って欲しいわけではないのだ。
誰も来てくれないと嘆いたが、先ほどからかい半分でやってきた輩はいた。
 
 
 
「ティエ。また変なこと始めようとしてるな」
 彼は過去にオカルト部と言う場所に所属していた時代を知っていたからであろう、そう言ってきた。
「変な事? 正常な判断のもと出した結論だけど?」
「お前にとってはな、だけどよ。そんな現実的じゃない話を研究する事のどこが真っ当だよ」
 魔法とか幽霊とか怪奇現象とか時代遅れもいいとこである。
存在しないものを研究して何のためになると言うのだろう。
彼の会話内容からそう言いたいと言う結論に達した。
「貴方の意見はよく分かった。だけど、存在を立証なくして端からいないと決めつけるその根拠は理解できない」
 鼻で笑うような態度に少し睨みつけるように見上げるが男は意を返さず、ニヤニヤと笑う。
「いないだろ? まあどうしてもいると信じて研究したいと言うのなら付き合ってやってもいいなと思ってよ」
 これは論争不可能。
根本的に人の話を聞かないタイプである。
「結構よ。特に貴方のような人材は求めてない」
 完全拒絶の態度を取るとギロリと睨まれた。
人を思い通りに動かしたい典型である。
「心配してやったのによ。また潰れろ! お前がその態度のうちは絶対に人なんて来ないぜ!!」
 一通り暴言を吐いて出て行った。
 
 
 
 このルティアナ学園は自由と平等教育で興味あることへの挑戦は後押ししてくれる。
部活の種類は多岐に渡るが部活に所属することは必須ではない。
誰でも気楽に部活が作れる代わりに人がいなくなると直ぐに消滅してしまう。
申告制であり、月単位で継続が確認されているからである。
ティエが嘗ていたオカルト部は当時の部長の怠慢により消滅した。
一度消滅すると復部は少し審査が厳しくなり難しい。
元々部員数も少なく、幽霊部員が大半だったため、ティエはその名称継続を諦めたと言う過去がある。
 
 確かに今はどんな活動しているのか分からないという無名さでは人は寄ってこない。
そこは認めよう。
だからこそ、部活の実績を上げれば、その分興味を持ってくれてた人が来てくれる筈だ。
火のないところに煙は立たない。
「しょうがない。来ないのならば足で稼ぐしかない」
 立ち上がり、自己が聞いた噂の根源を確かめに行くかと資料を取り出し確認する。
 
 その資料は最近の噂好きの子が話していた技術科の事件を自分なりにまとめたものである。
技術科という項目であるがそこは先程の言葉でまとめていいか分からないほどジャンルに統一性がない。
部活同様、専門という枠組みでアレもコレもドレもと設立した学科だと推測するほどごった煮なのである。
なので技術科の事件って言われても『あのガラクタ城のどこ?』ってなってしまって意味をなさない。
 その中で華やかなのは芸術コースで所属の人は才能の塊だろう。
良く誘拐されたと言われる場所である。
その時の公開ライブは鮮やかで面白かった。
上手く深刻な出来事をああも喜劇的に収めることができるもんだと感心する。
 
 だからこそ、この噂が奇妙なのである。
あの技術科が自力で解決できない事柄。
何かきな臭さが漂っている気がする。
 
「魔術科の出番か」
 魔法を科学的に研究している部門である。
この世の理は魔法と密接な関係があると言われている。
嘗て魔法を専門に扱っていた魔法使いと言う職業では呪文を用いて辺りを焼き払ったと言う。
多くの呪文が失われた今、媒体を介してでしか能力を発揮できない。
その媒体を作る専門家を育成するのが魔術科である。
その所為か、流石に技術科ほどでは無いがコースや専門性は結構種類は多い。
ちなみにその中で一番需要があるのはデイン属性で、次がヒャド、メラと続く。
デインは色んなものを自動化するのに役に立つ。
メラとヒャドは其々が単体でも有能であるがそれを合わせて作り出すイオ属性を込めた金属が最も流通している魔法物質だろう。
 つまり何が言いたいかと言うと、技術科が唯一不得意なジャンルがこの魔術科の住人が得意としている分野である。
なので、噂の真相を確かめて実績を作るのに持ってこいと言うわけである。
 
「まあ初の活動としては文句なし」
 パタンと資料を閉じて、部室から歩き出す。

 続く。