部員確保

「そこの貴方。古代研究家ヤヨイをご存知?」
 分厚い本を握りしめるとビシッと帰りがけの少年に話しかけた。
「おぉー! ティエどうしたんだ?」
 少年はいつものことのように歩んでいた足を止め、エルフ耳の小柄な女——ティエの話を聞く。
 
 古代研究家ヤヨイ。
青年はその存在を知らないが、過去に世界が二つに分かれたとされている説の一つとして、彼女の存在がある。
何故かと言うとその彼女が遺した書物はほぼ無いのだが、唯一残った解読が難しいほどボロボロになった本がある。
そこに書かれている内容が——読み解けている箇所だけでも奇妙なのである。
同じピラミッドの中のことが書かれているはずなのに現存するピラミッドでの発掘調査でわかっていることと内容が食い違っているのである。
そこで過去にこの世界は二つに分かれていたと言う説の立証になるか、いや彼女の存在事態を否定する人もいる。
 
「でも、それらが全て立証されれば素晴らしいことと思わない?」
 そのヤヨイが書いたであろう本のコピー本を大事に抱えながらほくそ笑む。
「個人的にはいける場所が増えれば増える程、素晴らしいと思うのよ」
 この限られた小さな箱庭の学園生活も古びた資料を読み耽るには適していることは適している。
「そりゃ学校にだって、原因不明の怪奇現は今でも起こっているのは確か! 昔はオカルトサークルとか入ってみたけど、解明しちゃうと面白くないのが多いね」
 深夜に廊下を走り回る人体模型。誰もいないのに鳴り響くピアノ。増える階段。体育館で自身の首をドリブルする首無し人。
などなど、あげればキリがないが噂は噂で結局彼女が出会うことはなかった。
ただ単に見間違いや勘違いってのもある。
中には、その時だけピアノの練習している先生がいたってだけだったり、首だと思っていたものがポンポン付きのボールだったってのには流石に笑うしか無かった。
 
「だから何が言いたいのかというと、探究研究追及、机上の空論なんて勿体ない! この足で目で確かめての浪漫!」
 興奮して来たのか、バンっと本を叩く。
「つまり、冒険部を立ち上げようと思っているのだけど、如何?」
 散々ティエの語りを聞かされた相手はキョトンとしつつもニイっと笑う。
「よくわからないけど面白そうだぞ!」
 彼は謎にはそこまで興味はないが、冒険という言葉はとても魅力的だと感じた。
「ローレ君ならそう言ってくれると思ってた。未だに身体のどこにそんな力が出るのか解明できない貴方なら、一緒にいて一石二鳥!」
 この二人の出会いはなんとも奇妙な境遇からであるが、ここでは割愛する。
簡単に言えば、噂で持ちきりだった少年——ローレの身体能力に興味を持ったティエが突撃したという話である。
 
 突撃された彼はいわば、物品の破壊神と不名誉にも言われている。
彼の壊した物品は数知れず。
私物はもちろんの事、学校の備品であるドアや机、椅子をはじめ、チョークや黒板消し、理科実験のビーカーや試験管、音楽のピアノやバチや木琴などなどありとあやゆるものを壊した実績がある。
最強の噂では鉄棒を捩じ切ったとか…。
真贋は兎も角、ローレの現在の目標が力加減らしい。
 もちろんボールもよく壊すのでボール遊び禁止になったことが本人が残念に思っている事柄の一つである。
唯一遊べる球技がサッカーである。
足での力加減は現時点では上手くいっているよう嬉々としてハマっておるようだ。
現に今も彼の足元にはサッカーボールが転がっている。
そのサッカーボールを与えたティエは大変満足している。
 
「実は外に行くのならボディーガードがいると思うから、ローレ君も一緒に冒険部に入って欲しいのだけど」
 魔物がモンスターパーク以外に見ることがなくなって久しいが、外の世界で全くのゼロと言う訳でもない。
勿論この世界の住人が普通に生活している分では会うことはないだろう。
しかし、秘境を求めて冒険するなら今もなお、生き延びている魔物が闊歩しているかもしれない。
いや、闊歩してて欲しい。
今でも戦闘に関しては闘技科の武術コースがあるのだからあり得るだろう。
そこを専攻しているローレが一緒なら心強い事この上ない。
「おう、いいぞ!」
 ローレが間髪入れずに言うとまたティエはほくそ笑む。
「また実際に部活動できるような状態なったら誘うね」
「おう! 待っていればいいんだな」
 一度は発足を失敗した部活だが、次こそは楽しい学園生活を送れることに期待し、心を躍らせる。
 
 一名:部員確保成功。

 End