最高のプレゼント

 キンキンと剣が擦れ鳴り響く訓練所内。
エイトはその光景に目を奪われていた。
家事一般を統括しているモーラさんに頼まれて予定より遅れてしまったタオルを届けるためだ。
本来ならエイトが届けるはずではなかったのだが、皆今夜開かれるパーティで猫の手も借りたいほど大忙し。
皿洗いが一段落したエイトは去り際に頼まれたのだ。
タオルを大量に積んだワゴンを引きずりながらやっと到着したばかり…。

そして恐る恐る入ったにもかかわらず、エイトはその光景にしばし見とれた。
兵士の存在は知っていたが自分とは無縁の場所と思い。
汗を流しながら戦いあう姿を実際に見た事がなかった。
あるとすれば自分を助けてくれた時だが、自分もミーティアを助けるのに必死でその後、気を失ったから印象に残っていない。
食い入るように剣捌きを見ていた。

「危ない!!」
 エイトが見ていたのとは違う場所で練習している兵士のはじかれた剣がエイトの方に飛んで来たのだ。
「!?」
 反射的に後方へ避けると先ほどまで引いていたタオル入りのワゴンに蹴躓いてバランスを崩す。
「わっ!」
 ザシュッと先程までエイトがいた場所に剣が刺さる。
まさに間一髪のところだった。

「大丈夫だったか?」
 タオルに揉まれているエイトを抱き起こしながら怪我はないかと確かめる。
ないとわかると少し口調を強くしていった。

「無断で訓練所に入ったら危ないだろう!」
「あの、ごめんなさい。えっと、タオルを……」
「タオル? あぁ訓練後に使う奴か…」
 納得しながらも少しだけ、グシャグシャになったタオルに視線を移し、小さくため息が出た。
無残な形で積み上げられたきれいなタオルは四方に散らばり、皺くちゃになっている。
中には土と接触しているものある。
兵士もエイトも途方にくれた。

「そこ!何している」
「あっ! 実は…早朝、届くはずだったタオルを今届けにきたそうです」
 この部隊の小隊長である人に怒鳴られて、オドオド戸惑っているエイトの代わりに先程の兵士が代弁した。
「あぁ、今日はパーティだっけ? 近衛兵達が忙しそうに準備していたな。遅れたのはその所為か?」
 そう尋ねられたのでコクコクと頷く。
姫様の誕生日パーティがあるからミーティア自身も忙しそうだった。
「まぁ、俺らには関係ないけどな」
「そうそう、大広間への出入りが禁止以外はな」
 お前も大変だねぇ。
とばかりに頭を撫でられた。
キンッと別のとことで音がした。
撫でられた部分を手に乗せて、音のする方に視線を移した。
そこには真剣勝負をしている姿。

「兵士とは何か」という質問に料理長の息子アロクは「剣や矛で城を…王様を守る者さ」っと教えてくれたことを思い出した。
「ちなみに僕等はナイフと鍋で城のみんなを守るのさ」っとも付け足していた。

(王様を守る…)

 あまりに真剣に見ていたからか、一人の兵士が面白半分に木刀をエイトに差し出した。

「興味あるのか、一回やってみるか?」
「えっ!?」
 ここをこう持ってっと細かく教え出した。
エイトには少し大きく重い。
「ありゃ、ちょっと早かったか」
 不格好だが真剣に頑張るエイトを見て、しばし考えた後。
そうだな、最終的にこの剣が自在に操れるようになったら続きを教えてやると言って手に持っている木刀をくれた。

「ありがとうございます」
 ほんの少し嬉しそうに礼をいい、エイトは持ち場に戻って行った。
「子どもっていいよな」
 っと、自分の行いに満足して兵士達は持ち場に戻り訓練を再開した。

「いいのですか?」
 様子を見に来ていた近衛兵が隊長に聞く。
「この国はなりたい奴が兵士になる。それだけだ。訓練をサボった奴にはそれなりの処置を取らせてやろう」
 少しニヤリと笑みを見せて、身を翻した。
「…お手柔らかにお願いしますよ」
「ハハハ」

 

 全てが終わった夜。
ミーティアはこっそり抜け出しエイトを探した。
今日一日忙しくエイトに会えなかったから、会いたくて仕方がない。
「エイト!!」
 庭先にエイトはいた。
人気のないと所で一体何しているのだろうと疑問が沸く。
エイトは両手で重そうな木刀を持って振り回していた。

「こんな所でいったい何しているの?」
「…えーと、剣の練習かな?」
 朝方あった出来事を大まかにかい摘まみながら説明した。
「では、エイトは兵隊さんになりたいの?」
 きょとんとしてから考え始めた。
深い意味なんて考えてなかった。
いろんな事が知りたくて知るのが楽しくて、その延長に兵士の事が飛び込んで来たのだ。

「…わからない」
 自分は何になりたいかなんてわからない。
わかることはミーティアや王様の役に立ちたいと言う思いだけだ。

「エイトが何になろうとミーティアは応援しているわ!」
 ニッコリ満足した表情で笑った。
そして、ミーティアは思い出したように言った。

「今日はミーティアの誕生日なの」
「パーティーして盛り上がっていたね」
 そう返すエイトに不満を覚え拗ねたように呟いた。
「お祝いの言葉が欲しいわ」
「えっ…えっと……」

 お祝いの言葉は…。
「おめでとう」
「ありがとう」
 ニッコリ笑って、ミーティアはエイトに袋を手渡した。
「…?」
 確かプレゼントは誕生日の人がもらうものだからエイトがもらうのは逆ではないかと疑問に思う。

「エイトの誕生日って解らないでしょ?」
「うん」
 誕生日どころか何時何処で生まれたのかさえわからない。
「だからね。エイトとミーティアがはじめてあった日を誕生日にしようってラナおばさまと話してたのだけど」
「……うん?」
 僕の誕生日? ミーティアとあったあの日を?
僕という存在を知ってくれてこの城に使えることになったきっかけの日。
その日が誕生日になるのか…。
そう思うとエイトの心がすごく温かくなった。

「でもね。それだと、まだまだ先だからミーティア待てなくて今回だけ特別にミーティアと同じ日が誕生日なのよ」
 ニッコリ満足げに胸を張った。
「え??」
 しばらく言葉の意味を理解しようとぐるぐると考えた。

「あ、ありがとうございます?」
「どういたしまして」
 やっと、出た言葉にミーティアは満足そうに言った。

「でも、プレゼント」
 エイトは上げるようなプレゼントを持っていない。
「んーじゃあ、明日一緒にいる時間をミーティアにくださいな」
 ミーティアの上げたブーメランで一緒に遊びましょう。
「それがプレゼントになる?」
「とっても素敵なプレゼントだわ」

 一度、エイトと一日中疲れるまで遊んでみたかった。
その願が叶うなんて最高のプレゼントになる。
エイトと話しているとミーティアの嬉しさはうなぎ登りになる。
ニコニコ笑うミーティアにエイトも嬉しくなって笑い返した。

「約束ね」
「うん、約束」

 二人は小指を絡めて指切りをした。

 END–