花輪

「姫様! 危のうございます」
 一人の兵士が無邪気に走り回る姫に注意を呼び掛ける。
「平気よ。聖水を撒いてるから」
 注意に耳を傾けず、うきうきした心で花の咲いている泉に向かう。
久しぶりに父から許可がおりて行く外の世界。
短時間とは言え嬉しくて堪らないのだ。
「しかしですね」
 護衛とってはなにかあっては困るのでヒヤヒヤだ。
かすり傷一つ追わせれば首が飛ぶのではないかと思うほど王はこの姫を溺愛している。
そんなことは幼い姫には関係ないことで相変わらずあちこちに駆け回っている。

「あら?」
 泉近くで小さな人影を見つけた。
姫は恐々その場所にゆっくり近づいていくと、子どもが小さくうずくまっているのがわかる。
魔物じゃないと気付き好奇心で更に近づこうとしたとき、丸くなっていた子どもがバッと身を翻して構え、こちらを睨み付けて来た。
子どもは姫と同ぐらい年齢の少年であった。
「姫様!?」
 兵士の静止の声がかかるが、そんな忠告より目の前の少年の方が気になる。
「あなたはだーれ?」
「………」
 返事が返ってこなくて悩む。
「えっと、今独りなの? だったら一緒に遊びましょう!」
 ニッコリと微笑み右手を差し出す。少年は多少の戸惑いの表情を見せた。
姫はその戸惑いを肯定と決め、花の冠を作りましょうと彼の手を取り花が密集している場所まで誘導する。
それを見ていた兵士はもうオロオロだ。
止めるべきかいや、相手は子どもだし、しかしながら姫様を危険に晒すわけには…
いや、子どもに何か出来るわけじゃないし……と永久のループに取り込まれていく。
「ここのお花で冠を作りましょう!」
 と、兵士が悩んでいるとは露知らず綺麗な花を選んでは器用に網始める。
いくらか進んだ後少年の方を見れば一つ花を詰んだままそれをくるくると回しているだけであった。
「どうしたの? もしかしてつまらない?」
 残念そうに少年を見れば、彼は2回首を横に降る。
「あっ、作り方がわからないのね。では、教えてあげる!」
 頷くのを確認して姫は目の前に自分の作り賭けの花輪を少年に見せた。
「えっと、これをね、こうするでしょ。そして、これをこうする! 後はそれを繰り返して……」
 一通り教えると、にっこり笑って少年もやるように言う。
少年は慣れない手つきで懸命に姫の真似をしながら作り出す。
姫も違う所を訂正しながら自分のも完成さすベくせっせっと手を動かした。

「完成したわ! あなたはどう?」
 そして、出来栄えに満足しながら少年の方を見た。
初めより動きはスムーズにはなっているが完成にはまだ足りない。
「う~ん…」
 チュウと、突然少年のポケットからネズミが飛び出して来た。
「きゃっ!?」
「姫様!」
 姫の声で兵士は腰の鞘から剣をいつでも抜けるように構えて姫の側に駆け寄った。
「どうかしましたか!」
(聖水の力はまだ効いているはず…まさかガキが何かを)
 っと慌てたが近寄ると姫の笑い声が聞こえた。
「姫様?」
「ごめんなさい。急にトーポが飛び出したので驚いたの」
「はぁ、トーポですか?」
 いまいち状況が飲み込めない兵士は小さく溜息尽き、危険がないのならと見守るしかなかった。
「そうよ。この子の冠にしましょう!」
 少年から作りかけの花を受け取り、小さなワッカにしてトーポと呼ばれたネズミに乗せた。
「あら、ちょっと大きかったかしら」
 何事かと暴れているトーポを見て自然と笑みが漏れた。
そんなやり取りを見ていた兵士は少年の容姿を見て首を傾げた。
(破れてはいるがあの服はこの辺りのものではないな。かといって他国の容姿は余り知らないがあんな服あったか?)
 まぁ取りあえず害はないだろうと判断した。
もうすぐ日が暮れる。
今日の事は姫様も喜んでいるようだし、これでよかった事にしよう。
「姫様。そろそろ城に帰る時間です」
 一礼を忘れずに兵士は姫に時間を告げる。
陛下が戻る時間よりも早く戻った方がいい。
「ええ! もうそんな時間なの」
 まだまだ、遊び足らないとばかりに姫は不満をいうが、聞き入れられないことも知っている。
だから、残念ではあるが少年と遊べた事は嬉しかったので素直に言う。
「今日は楽しかったわ。ありがとう」
 そこまで言って姫は少年の名前を知らないこと、自分も名乗っていないことに気付く。
「いけない、私の名前はミーティアと言います。ミーティアとお呼びください」
 礼儀正しくお辞儀をしてミーティアは、貴方は? っと少年の言葉を待った。
「僕は……」
 名前を名乗った少年にミーティアは嬉しそうに手をあわせる。
「素敵な名前ね。これからも仲良くしてね。記念に…これを差し上げます」
 花の冠を少年の頭に乗せ、握手を求める。今度は少年もそれに素直に応じた。
それから直ぐ何かに気付いた少年はトーポに乗せていた花輪を姫の腕に通した。
その花の腕輪を眺めてから、これから2人はお友達ね。っとすごく嬉しそうに微笑んだ。
「今日と言う日がとっても好きになったわ。じゃまたね!」
 ニッコリ笑って背を向けて歩き出している兵士の後を追った。

これが姫と少年の不思議な出会いである。

 END–