旅の意気込み

 仲間になりたてのククールの故郷ドニの町での別れを提供すべく、ククールとは別行動をとり、次の町への準備をエイト達は始めた。
準備と言っても装備品はある程度整えた後だったので薬草や今後に必要な道具をそろえる程度であるが…。

「ええとこっちの大陸にゃあ、この修道院のほかに、でかい街とちいさいお城がひとつずつありまさぁ。どっちも、ちょいと長旅になる。準備をしてったほうがいいでげす」
「………」
 一生懸命考えながら今後の予定の話を提供してくれるヤンガス。
しかし、相槌すら打たずに呆然としているようなエイトを不思議に思う。
「兄貴?」
 不思議そうな会話に、ゼシカも加わる。
「何々、どうしたの?」
「え?」
 二人に覗き込まれてエイトは状況が飲み込めずアタフタとする。
「ククールのことですかい?」
 視線がククールを追っていたのを知っていたヤンガスは心当たりを訪ねる。
「ああ見えてククールの奴も苦労してきたようでがすね。人は見かけによらねえでげす。」
「…そうよねぇ。ただのケーハク男ってだけじゃないのね」
 キスされた手の感触を思い出してか、手の甲を対側の手で払う。
「あーやだやだ。あの性格はどうにかしてほしいわ」
「……」
 確かにあれはすごかったと、エイトは思う。
彼を形成したものは確かにあるだろうけれどもエイトには見当がつかない。
ただ、ドニの町は温かく気さくなで、どこか寂しいという印象を受けた。
何処がと言われると答えられないが、エイトが過ごしたトロデーンとは少し違う気がした。
城と町では全然違うのは当たり前だろうが言葉で表せない蟠りを感じる。

「ゼシカの姉ちゃんといいククールといい、家族に縁がねえ奴ばっかりでがすなあ」
 ゼシカがここにいる理由を思い出すかのようにヤンガスは呟く…。
ヤンガス自身はすべてエイトに捧げるために此処にいるが、ゼシカやククールは共通の敵がいてその仇討と言う目的で成り立っている。
家族を殺されるという気持ちはヤンガスはわかるようでわからない。
ヤンガスの親は殺されたわけではなかった。
生死が一番近いのはヤンガス自身だと思っている。
決して、口では言えないようなことを数々してきた、恨まれたこともあるだろう。
 それに対して、ゼシカもククールも温厚に暮らして来たと言っても過言ではない。
にもかかわらず、このような仕打ちをされているのだ。
ドルマゲスに恨みを持っても仕方がない思う。

「そうよね。はじめてこの町に来たときは、まさかあんな事になるとは思ってもみなかったわ」
 ただ軽薄男を懲らしめてやりたいなんて思ってたぐらい。
もし楽観視していたのかもしれないと、ゼシカは思う。
殺されたサーベルト兄さんをこの手で倒したい、敵を討ちたいという気持ちはある。
けれど、押し寄せる不安。
「……この先、ほんとうにドルマゲスを 倒せるのかな? 仲間は増えたけど、でも……」
 ゼシカは思わず俯いて黙る。
確かに誓った。
奴を止めると、棺の前で誓ったけれども、あの惨状を思い出しても身震いが止まらない。
「…ゼシカ。大丈夫、手立てはあるよ。今は何もわからない状況だけどね」
 困ったように笑うエイト。
こういう時どういう風に励ましていいのかわからない。
何もできなかったのは同じ、みすみす目の前で人が一人亡くなった。
ドルマゲスの手によって…。
ククールは責めなかったが、やり場のない思いが宙を彷徨っているような気がする。

 あの惨劇はちょっとやそっとでは立ち直れる自信はない。
場の空気が一気に暗くなっていくのを三人とも悟る。
「弱気になってちゃダメよね。ごめん。もう言わないわ」
「くあぁぁー!! なぐってくだせえ 兄貴!」
 辛気臭い空気を吹き飛ばすかのように掻きむしって、大声でエイトに詰め寄る。
「ゼシカの姉ちゃんや、兄貴にさんざん威勢のいいことを言っといてドルマゲスに手も足も出なかった。トロデのおっさんですら立ち向かったってのに。アッシは情けねえんでがす。悔しいでげす!」

 後悔という言葉がいくつもある。
あの動けていたら、いや、その前に違う行動をとっていたらと無限に増えていく。
どうしてそうなってしまったのかわからないまま、それでも前に進まないといけない。
あの時のトロデ王は無謀だったかもしれない。
だけど、自分で何とかしようとする意志の強さは見習わねばならない。

「ヤンガス…いいね」
「え、ちょ、エイト!?」
 拳を構えるエイトにゼシカは唖然とする。
短い付き合いではあるが、こういう暴力沙汰は苦手だと思っていたからだ。

「一思いにやっちまってくだせぇ!」

 ガッと、見事に右ストレートが決まるも、吹き飛ばされず踏ん張るヤンガス。
衝撃で切れた口元から流れる血をふき取り、ヤンガスは笑う。
笑いもせずジッと見つめるエイト、ヤンガスは共に拳を握りエイトめがけて殴る。
エイトはこらえきれずに吹き飛ばされる。

「えぇ!?」
「兄貴!! あぁ、すまんでげす。思いっきりやっちまったでがす!」
 思いのほか吹き飛ばされたエイトにヤンガスは慌てて駆け寄りなけなしの回復呪文を唱える。
「ありがとうヤンガス。強くなろう」
 座ったままだったが、拳を突き出して笑うエイトに
ヤンガスも嬉しそうにその拳を当てる。

強くなろう。
王を守れるぐらいに、無謀ではなく勇気と讃えれるぐらいに…。

「男って、これだからやーね。でもまぁ、強くなるってのには賛成だわ」
 その様子をはらはらと見ていたゼシカは困った人たちねと、笑いながら賛同する。
全ての恐怖が取り除けたわけではない。
でも、あの時誓ったように前に進むしかない。
だからこそ、恐怖を吹き飛ばすぐらいに強くなろう。

「ヤンガスも回復を…」
「せっかく兄貴が殴って下さったでげす。そのままにさせてくだせぇ」
「ホント、よくわからないわ」
 そんなゼシカの呟きから、笑い声が木霊する。

【END】