「ここもまた金のカギが必要だぞ」
祠には『旅の扉』という瞬時に違う場所へ移動できる魔法渦がある。
三つあるところもあるが、どれに飛んでも最終的に金のカギで阻まれるのである。
残り四つの紋章に加え、金のカギが必要不可欠なのだ。
だが、今まで寄った場所では、カギがあることは知っていてもその所在まで知る人は居なかった。
その代わりに別の情報が手に入った。
ラダトームの城にいる旅の商人らしき人が教えてくれた。
『財宝をつんだ船は北の沖の小さな浅瀬に乗り上げて沈んだとか』
思い出すはルプガナの港町で途方に暮れていた商人のことだ。
ダメで元々と船の舵を北へと向ける。
ラダトームとルプガナの間の海を北上すると、ちょっとした浅瀬を見つけた。
「おお! これは沈んだ船の財宝!」
浅瀬に幾らか引っかかっている財宝があり、幾つか持ち帰ることができた。
しかし、全部ではないだろう。
それでも喜んでくれた。
拾った位置を教えたので最悪は自力でなんとかするのではないかな。
「お礼に山彦の笛を差し上げましょう」
拾ったお礼にもらった笛。
吹けば良い音色が聞こえるが何のために使うのかは、わからなかった。
行き詰まった一行。
「ローレシアの城で見つけたところに行きたいぞ」
正確にはローレシアの城にある、旅の扉の先の小島から見えた、町か村かはわからない、集落のことである。
海を挟んでいるのでローレシアからは行くことができない。
「どの辺りかも、わからないのよね?」
「周りに何もなかったんだぞ」
「手当たり次第探すしかないねー」
確証の無い船旅が始まる。
海海海。
四方が海となり、現在位置が危うくなる。
迷わぬようにルプガナの港から、できるだけ真っ直ぐ北へと舵を取る。
海は穏やかで魔法の力を借りた船は三人の意思を受け取り前へと進む。
座標がわからない、大陸から離れた場所にあるというだけの情報で島を当てもなく探す。
「何か見えて来たぞ!」
点と見えていた島は近くに連れて大きくなる。
目的とした場所ではなかったが、島というより大陸の中程、湖に囲まれている町を見つけた。
「水の都ベラヌールにようこそ」
その名の通り、大きな湖の中に建てられた水の上にある町である。
入り口の橋以外はどこの陸地とも接していないため、魔物の侵入が立地的に制限されている。
旅人として、歓迎されたその町で人々から幾多の情報を貰えた。
中にはよくわからない情報もあったがまとめるとこうなる。
月の紋章を所持している王がいるデルコンダルは、ローレシアのずっと南の海にある。
ずっと東の海の小さな島に世界樹の木が一本はえていて、その世界樹の葉には死者を蘇らせる力があるらしい。
位置情報はこんな感じである。
あとは稲妻の剣や水の羽衣などの情報。
「稲妻が出せる剣」
ゴクリと喉がなる。
ロトの剣の攻撃力が既にここで販売されているドラゴンキラー(8000G)に負けており、それより強力で更に魔力が無くとも稲妻を操れるなんて、とても魅力的だ。
「あまつゆの糸と聖なる織り機で水の羽衣が…」
横でムーンがそう呟く言葉が聞こえた。
それぞれ興味がある物が違うんだなと思う。
一行は再び海に出て、小さな島経由でデルコンダルへ向かうために東へ舵をとる。
ローレシアはベラヌールから北東にあるのでその方向に進むついでに世界樹の葉もゲットしようと思ったのだ。
ムーンが道中で覚えてくれたトヘロスと言う弱い魔物が寄り付かなくなる呪文を唱えてくれるので戦闘になることは稀になった。
しかし、苦難はここから始まる。
東に行けどもそれらしき小島が見つからない。ここだと思った場所にデルコンダルの大陸もない。
サマルもムーンもあれやこれやと二人で言い合うが場所の結論が出ず、二人から舵を任されたまま適当に船を動かす。
いつの間にやら議論はルーラで戻るべきかどうかと言う論点に変更していた。
「何とかなるんだぞ!」
カラカラと舵を操りながらサマルとムーンに話しかける。
「それに海ばっかりだったら、もう一つの場所が見つかるかも知れないぞ!」
全ては可能性、だが焦ってもしょうがない。みんなで力を合わせよう。
「そうね」
「のんびり行こっか」
二人は互いに顔を見合わせて笑う。
いつの間にかやらねばならないと言う使命感に雁字搦めになって焦りばかりが募っていた。
皆初めての経験なのだ。順調に行くわけがない。
適当に行くのも悪くないだろう。
何気ない一言で凝り固まった心が溶ける。
「ねぇローレ、流石に迷い過ぎだと思うわ」
ローレシアを拠点に旅をして幾日か過ぎた。
一人町に残された男がいる大陸、とてつもなく強い敵が蔓延る大陸、邪神という像の場所を知る老人がいた小島。
様々に進んだがそれ以上の進展がない。
強い敵が蔓延っていたあの場所は、サマルがギラの強化した魔法、ベギラマを覚えていなければ全員死んでいただろう。
直ぐに黍を返し、船に戻った。
「おかしいんだぞ」
「諦めた方が楽だよー」
ローレシアの旅の扉を潜った先から見えたあの場所も見つからない。
ローレシアとベラヌールの町を往復する事で、どの場所にあるかを完全に把握した。
ついでに使いで来たローレシアの兵士が炎の祠に太陽の紋章があると教えてくれた。
父王に相談してそんなに経っていないので仕事が早い。
相変わらず、三つの目的にはどこにも着いていない。
同じところをぐるぐると回っている気もする。
「位置関係はつかめて来たけど、目的地の場所は消去法で進むしかないね」
見つめるは紙を広げ大雑把に書き込まれている地図のようなもの。
チラリと見て舵をとる。
目的は白い部分。
更にどれぐらいの時間を浪費したか、目的の島を見つけた時は涙が出そうになった。
と言っても、何か目的があったわけではないのであれだが、目的の一つを見つけた嬉しさはひと押しだ。
その場所——漁師の町ザハンは今までの場所に比べて閑散としていた。
小さな町ではあるが、それ以上に人が少ないのだ。
その代わり町の中央に聳え立つ教会のような建物が異様に主張していた。
「お引き返しあそばせ。神殿を荒らすものには災いがふりかかりましょう」
よそ者を拒むように入り口のシスターから教会に入ることを拒絶されてしまった。
中に入れてくれないので、外から眺めるに留めた。
「うわーん。あそこの犬が吠えて袖を引っ張るんだよお」
一風変わった形の教会、この独特の建物の周囲をクルリと歩きながら眺めていると少年泣く声が聞こえた。
この犬かと吠えている犬の方へ近づくと余所者でも良いらしく服の裾を噛み引っ張る。
「ローレ!?」
男の子を避難させているサマルがされるがままの状態になっていることを心配して声を掛けてくれた。
『大丈夫』と合図を送り犬に付いて行くと、ここだと主張するように吠えて前足で掘る犬。
「何とまあ」
「これは…」
犬が薦める場所を掘り起こして出てきたものを見つめていると後ろから声が聞こえた。
「これってやっぱり?」
「金のカギだろうね」
ずっしりと重く鈍い光を放つ金色の鍵。
何が起こるかわかったものじゃないと暫くした後、声を出して笑い合った。
それをキョトンと犬が首を傾げて眺めていた。