Lv.14:ドラゴンの角に登った。

「おればっかりなんだぞ」
 ムーンペタの町でお金に余裕ができたので防具を整えたが、買うものがどれも二人が装備できない物ばかりで、眉を潜める。
「こればっかりわねー」
「ローレが硬くなれば回復回数が減るから、助かるのよ」
 まだ納得しかねるが、何度店を覗いても二人が装備できるものはないと言っていたので、渋々了承する。
剣、盾、鎧と鋼シリーズの防具(合計4500G)に身を包み、再びドラゴンの角へと向かう。

 順調に進み、ここは砂漠のオアシス。
その休憩中に御守りを眺める。
「…ロトの御守りか」
 前にサマルトリアの城で、一回説明を受けたが、それに加え全員が瀕死になると城や町——この場合、聖なる何かを施された者の側らしいがよくわからない——へ、戻る事ができるらしい。
治療費が所持金の半分というよくわからない効果付きである。
「復活の呪文って言われている。勇者ロトが残したものの中の不思議な宝の一つだよ」
 サマルがニコニコと答える。
復活の呪文と連動するこのロトの御守り。
「そうね。お父様がそれを担っていた。だから私にはその力はまだない。ムーンペタの叔父様には感謝しないといけないわ」
 あの時、目の前にいたのはムーンブルクの王の弟であった。
一応、現在はムーンペタの町を統治している人らしい。
そうは見えなかったが…。
「でも、なんでおれだったんだ?」
 全滅したときに二人はまだ棺桶状態であった疑問をぶつける。
「それは、ローレが持っているのが、竜殺しの勇者が直接手にしたロトの御守りそのものだからだろうね」
「私たちが持っているのは、ご先祖様が解析した模造品に過ぎないもの」
 ムーンが取り出し見せてくれたが、違いがわからない程に精密で、全く同じにしか見えなかった。

 一度通ったこの道は、対処が慣れたものである。
誰がどの敵を倒すかという役割分担ができてきたとも言う。
【マンドリル】のような攻撃力が強い魔物が一匹で出てきたときや、厄介な魔法を使う相手の場合はローレが剣を振り回し処理している。
また、集団で出て来て瞬殺できる相手はバギが使えるムーンの役割。
一撃で倒せない相手やムーンが取りこぼしたのにとどめを刺したり、魔法が厄介な敵を封じたり、倒れやすいムーンの回復を主にするのがサマルの役割である。

 ドラゴンの角と言われる双子の塔の南側を登る。
風の塔のようなややこしい作りではなくひたすら螺旋階段を上へ上へと登っていくような作りになっている。
最上階に昔は吊り橋があったそうだが、今は朽ちていて無い。

 塔で新しく出現した【メンドーサボール】——青い光沢のある蛇の髪の毛を生やした一つ目のモンスター——はこちらの魔法が効かないのに、こっちにはラリホーを唱えてくるので厄介である。
早々になぎ倒して、頂上へ進む。

「ローレ待ちなさい。あなたまだマント装備…」
「あ…」
 頂上へ登ったテンションで、見通しのいい高台を何も考えずに飛び降りてしまった。
高いところから飛び降りても、基本的に風の力が靴の裏に施されているので、着地を失敗しない限り命に別状はない。
ただし真下に降りるだけで、向こう岸に飛べるわけではない。
後ろの二人に呆れられると言うおまけ付きで、もう一度登る羽目になってしまった。
「ごめんなんだぞ」
 風のマントを持っているだけで、飛び降りたときになんか作用するのかなって思ったのだけれど、二人からしたらそんな訳がないらしい。
「ローレ、使うときに道具もちゃんと装備しないとダメだよ」
 とやんわり注意を受けた。
ごもっともです。

 再び頂上へ登り、ちゃんと風のマントを纏い、二人を抱えて飛び降りる。
途端に、清々しいほどに風を受けて、緩やかに滑空できる。
身体の重心移動である程度、方向操作できるようで、本当に便利なものだなと思う。
双子の塔のもう片方にも登ってみたかったが、二人の魔力の関係で先に町など休めるところを探したいと言われた。
確か、ムーンがルプガナの町があるとか言っていたな。

 山の谷間を抜けると広い平原に出た。
そこに出て来たのは【どろにんぎょう】——操り人形のようにカクカクした継ぎ目のある泥でできたモンスター。目がハニワのようでちょっと怖い——は、形成を維持するためか、不思議な踊りで魔力を吸い取るらしい。
吸い取られるものがないので実感はないが、魔力を取られたと、二人が言ったのでそうだろうと思う。

「囲まれたよ!」
「緑にラリホー撃てるか?」
「ラリホーなら、何とか行けるわ」
 緑とは、【バブーン】——マンドリルを一回り大きくして緑色にしたモンスター——のこと。
【どろにんぎょう】との共闘されると厄介だ、攻撃が強くて優先して倒したいが、【どろにんぎょう】の方が、今後の生死に関わる魔力吸収の踊りをしてくるから優先度が上がる。
しかし、【バブーン】をそのまま放置するわけにもいかない嫌なことに仲間を呼ぶのだ。
一匹でも手を焼くのに集団で来られた日にゃ天を仰ぐしかない。
だから、ラリホーで眠ってもらい、その間にピンチの元凶を叩く。

 新しいモンスターに翻弄されながら彷徨い歩き、何とか遠くに海が見える海岸沿いの港町に到着した。
このとき、少し泣きそうになったのはいうまでもない。

「港町ルプガナにようこそ」
 暖かく向かい入れてくれたが、何はともあれ宿屋へ直行することにした。
相当、疲労していたから宿代が60Gとかそんなこと言っていられず、その暖かいベッドへと身を沈めた。

 ロレンLv.14、慣れないモンスターに苦戦中。