Lv.13:風のマントを探した。

「ムーン!」
 目の前には三匹の【マンドリル】がいる。
たった三匹だったが、道がわからなく迷いながら進むために、魔力の温存を少しでも考えていた時であった。
サマルの回復が間に合わずムーンの胸元が光り輝き、桃色を基調とした棺桶に入る。
「くっ」
「サマル!」
 回復が空振りに終わり、サマルも次の標的に……その隙に一匹は倒せたが焼け石に水。
直後、ローレ自身の脳天にもマンドリルの拳が直撃する。
脳を揺らされて行動が遅れた、それが全てである。
相手の連携攻撃に継ぐ連続攻撃。
視界が赤く染まる。

「…!?」
 ガバッと起き上がる目の前には、愉快に笑う初老の男がいた。
ここはムーンペタの町の隅。
「今じゃ、城以外でも効果があるんじゃよ。全く便利な世の中になったものよの」
 ロトの御守りの存在を思い出し、ギュッと胸元の御守りを握る。
「爺さんが助けてくれたのか?」
「そうじゃ。しかし死んでしまうとは情けない」
 叱咤する老人の声を浴びながら、最後の攻防が頭を過ぎり、倒れるムーンとサマルの姿を順に思い出す。
「ムーン! サマル!」
 直ぐ後ろには棺桶。
蘇ったのは一人だけだと言うことか。
なぜだと混乱する頭に老人が優しく教会へと導く。
「ほれ、直ぐ横の教会で生き返らせてあげなさい」
 すぐさま、駆け出し生き返らせてもらう。
所持金がなぜか減っていたので、不安になりながらもお願いする。
寄付金がギリギリ足りていたことにホッとした。

「良かった」
 無事に生き返らせて貰えて、涙が出る。
本当に大丈夫なのかと不安でしょうがない。
「ごめんなさい。迷惑かけたわね」
「いやー、僕も回復遅れたからねー」
 ムーン自身が初めから覚えているホイミの上位回復魔法であるベホイミは、魔力消費が倍であるため、サマルのホイミで温存しようと考えたのが失敗の始まりだと、生き返り早々分析するサマルとムーン。
冷静な二人に置いてかれそうになるも、生きてる二人がいる喜びが上回る。
思わず抱きしめる。
「もう、やなんだぞ」
 泣きそうになるのを必死で堪えると優しく抱きしめ返してくれた。
「大丈夫だよ。僕らは…。ロトの御守りが無事発動してくれたから」
「あなたのお陰よローレ。ありがとう」

 

 心落ち着かせた次の日。
「回復は我慢せずに直ぐだぞ! えっと、それから魔力がなくなったら、サマルのルーラで戻る。無理はしない…」
 見えていた塔を攻略を断念しようとしたら、大丈夫だからと二人に何度も説得された。
無茶はしないと言う約束の元、再び塔への道を模索する。
「大丈夫だよー」
「気をつけるわね」
 どこか温度差を感じつつ、歩き出す。
歩みを止めたくない何かを二人から感じつつ、しかしそれを言葉で説明することができなかった。

 以前の反省を生かし、三人が取った行動は『ラリホー戦法』である。
【マンドリル】は眠り耐性がないので、眠らせてから攻撃。
一匹の場合は他に脅威がなければ、集中攻撃。
バギで蹴散らすには皮が分厚く威力が足りない。
【マンドリル】以外のモンスターもいるが、削られる脅威が一番強いのが【マンドリル】であったため、【おばけねずみ】や【リザードフライ】はバギで一掃。
【ラリホーアント】が魔物の群れにいれば、真っ先に倒す。
【リビングデッド】は頻回に防御してくるので、攻撃が通りにくく時間がかかるが、防御中はこちらへの攻撃もないので、総攻撃されるよりやや余裕ができる。
厄介なのが【ホイミスライム】と一緒に出てくるときだ。
【ホイミスライム】にバギやラリホーなどの魔法が効かない上に【リビングデッド】を回復する。
【リビングデッド】は硬く回復されると倒せないので、【ホイミスライム】を先に相手にしないといけない。
その隙にマヌーサという視界を怪しげな煙で遮り、境界が曖昧になる魔法を掛けてくるので、余計な傷が増えてしまう。

 そんなこんなで方向だけを頼りに彷徨い歩き、危なくなったら町に戻る繰り返し、漸く目の前の塔へ辿り着くことができた。
位置的にはムーンペタの町の南東だが、山と巨大な川に囲まれたそれは、北東へ物凄く大きく迂回しないといけなかった。

 その塔は風の塔と呼ばれているそうで、構造は上へ上へと登る単純構造であった。
真ん中の階段は一本道の代わりに、せっかく上の方まで登ったにもかかわらず何も無く、そのまま引き返す羽目になったり、別ルートは一歩踏み外せば真っ逆さまという細い壁伝いの道を歩かされたりした。
ある程度登った所で、降りる階段を複数見つけた。
虱潰しのつもりで手前の階段から降りて行ったら、数階下の部屋で風のマントを見つけてしまった。
それじゃ、頂上に何があるのかと登り切ったら、何も中身が入っていない宝箱を発見しただけと、なんとも言えない気持ちにさせられる。
ハズレの多い塔であった。

 モンスターは【かぶとムカデ】——青色のでかい百足——と言う【よろいムカデ】より更に甲殻が硬い奴が出てきたが、バギの魔法には一発だったし、今までの経験から剣でも隙間を狙い二、三回斬りつければ、倒せた。
なので、ここまで辿り着くまでに培った、チームプレイがそのまま活かされた塔であった。

「登ったり降りたりが大変だったけど、無事に手に入れられたわね」
 塔の最上階、空っぽの宝箱を背にホッと一息。
サマルから荷物の整理をしつつ手渡された風のマント。
「さっきのところを降りてみようってローレが言わなかったら、もっと探さなきゃいけなかったかもねー」
 青色を基調とした裾がギザギザのマント。
裏地は白が混じっており、フワッとして生地の重さを全く感じられない程である。
「これで次へ進めるんだぞ」
 サマルが丁度覚えた脱出呪文のリレミトを唱え、ルーラで一気に町に戻る。

 Lv.13、行く先がわからなくても、只ひたすら前に進むのみ。