Lv.9:ムーンペタの町に向かった。

 ローラの門を無事に潜り、地下通路を歩いているときだ。
右に曲がる方と真っ直ぐに行く方があって、右に何かあるのかと見に行ったら、何もない小島に出た。
足元を注意して調べたが結局何もなく、仕方なしに戻ろうとしたら、不気味な仮面をかぶっている【まどうし】三匹に出くわす。
一見人型であるその姿は親近感が湧くが、油断は禁物。
ローブをはためかせ唱えるは火炎魔法のギラ。
思わぬ連続の魔法攻撃に遭い、サマルが棺桶に入ってしまったのだ。
「オレより自分を回復して欲しいぞ」
「ごめんねー。回復指定間違えちゃった」
 慌てて、リリザの町に戻り、160Gの寄付金を払って、再出発となる。

「うーん。そう言えば、マホトーン覚えたよ」
「マホトーン?」
「ギラとかラリホーとかの魔法攻撃の呪文を封じるんだー」
 何時覚えたのかわからないが、そう言うのがあるらしい。
魔封呪文が効くのは確率だが、やって損はないかもしれない。
「じゃぁ、魔法を使いそうなのにお願いするんだぞ!」
「頑張るよ」
 と言う作戦を立てたのだが、どちらかと言うとギラで攻撃したり、鎖鎌で先に相手を倒した方が実は早かったりする。
【まどうし】が三体同時に出現も珍しいらしく、あれ以来、出て来なかった。
お蔵入りしたこの作戦は別の機会で大活躍することとなる。

「思いの外、苦労したけど、思っていたより大丈夫そうだぞ」
 ムーンペタの町に着いたとき、息が漏れると同時にそう呟いた。
「ムーンブルク城が占拠されてたら、危なかったねー」
 サマルは相変わらずのんびりとした口調で同意する。
何はともあれ、予定より一日オーバーして目的地に着いた。

「ムーンペタの町にようこそ。ここは人と人とが出会う町です」
 ムーンペタの町はローラの門から南、リリザから送られる物資がムーンブルクの城へ行くまでに必ず集められる物流のハブの町である。
その分、商人の行き交いが多くムーンペタ自身に特産は無くとも賑わっている。
いや、ムーンブルクが亡き今、賑わっていたと言う方が正しいかもしれない。
兎に角、ムーンブルクとの交流が盛んなので今回の惨状に詳しい人がいるのではないかとサマルが推測した。

「もしやロレン様ではっ!? こんな所でお会いするとは! ああ夢のようですわ!」
 不意に声を掛けられた。誰だ?
「知り合いー?」
「昔城に使えていた者です!」
 テンション高く出会いを語ってくれたが、小さい頃の話をされてもあいにく記憶に残っていない。
こちらからのリアクションができなくて申し訳なく思う。
「思い出を大切にしてくれて嬉しいぞ」
「滅相もありません」

 知り合い——覚えていないが、向こうは知っていそうなので問題ない——に会ったおかげで、ムーンブルク城の状態が大凡わかった。
現在は廃墟と化したムーンブルク城に聖なる力は無く、魔物が闊歩している。
しかし、襲ったであろう大量の大神官ハーゴン率いる軍勢は引き上げており、これ以上の被害拡大はないとのこと。
なぜ、ムーンブルク城が襲われたのかは不明。
生き残りも僅かでまともに会話できる人がいないと言う状況である。

 想定した最悪の状況ではないが、国ひとつ滅んだと言う現状には何とも言えない気持ちになる。
「くーんくーん」
 心が沈んでいるからか、一匹の犬が不安そうに覗き込んできた。
慰めるように寄り添ってくれる癒しに抱き上げる。
「大人しい犬だねー」
 サマルも近寄り、同じように頭を撫でる。
ローレシアにも野良犬はいるが、これ程までに人懐っこいのも珍しい。
「武器と防具のお店に行くぞ〜」
 犬を抱いたまま、お店へと歩む。
行く途中、酔っ払いが知識を自慢するように『どこかの塔にある風のマント』について教えてくれた人がいたが良くわからなかった。

 ムーンペタの町には想像以上にいいものが売っていた。
その分値段が高いので、今の所持金では鉄の槍(770G)しか、買えないが…。
「ローレが装備しなよー」
 サマルに渡すとそう言われた。
この先強い魔物が出てくるらしいので、一撃で倒せないかもしれない。
鋼の剣(1500G)が買えるまでそれでそれで頑張るかな。
「わかったんだぞ!」
 滅ぼされた城の付近は、不明な点も多い用心に越したことはない。
町の外へ出るとき、人懐っこい犬とはひと時の別れとなる。

 ムーンペタの町から南、橋を渡ったここ一帯のモンスターの種類は多岐にわたる。
【まどうし】や【おおねずみ】は問題なく片手間で扱えた。
【よろいムカデ】も大量に出てきたが、苦戦したのは鋼の剣を購入するまでの問題で、さほど苦労しない。
鋼の剣は【よろいムカデ】の甲殻をも砕くことに戦慄を覚える。
新しく増えた【リザードフライ】——蚊かハエがでかくなったような緑色の虫——はギラ攻撃を頻発にしてくる。
しかも、集団で出てくるので一気に体を焼かれてしまう。
そこで以前、編み出した『マホトーン戦法』が有効。
固まっている集団の魔法を一気に封じ込める。
魔封じをされているにもかかわらず唱えようとする姿は滑稽である。
【タホドラキー】——緑のドラキー——や【スモーク】——煙に顔がある感じ——は呪文を唱える前に倒せば問題ない。
さすがに一撃では無理だが…。
こうして、分析できるようになると死ぬことが少なくなり、そこそこ遠出が可能となった。
旅をしていく自信が付いて来たかもしれない。

 ロレンLv.9、現状分析は重要である。