Lv.8:扉を開けに回った。

「後は帰るだけだねー」
 倒せた後、無事に銀のカギを手にして、二人で笑い合う。
「でも、こっちも探索してないぞ」
 洞窟を戻っていたとき、分かれ道の左手部分の洞窟の穴が気になり、そちらに進む。
その奥には宝箱二つあり、一つはお金。
もう一つは…。
「キメラの翼だね」
「キメラの翼?」
「えっと。天井のないところで、それを投げると、最後に出た町や城に着くんだー」
「そうなのか!」
 ただの羽の生えた輪っかにそんな効果があるのか。
今回初めて見たものに感嘆を覚える。

「また出てきたよー!」
 帰り道も大変であった。
真っ直ぐ洞窟を抜けるだけだが、何せモンスターがわらわらと出てくる。
サマルの魔力切れで、ギラ戦法が使えないため、より相手から攻撃を喰らう。
「サマル! 先に行け!」
 【キングコブラ】をなぎ倒して叫ぶ。
毒にかかったら厄介だ。
毒に侵されたまま、永遠とローレシアの城まで歩いた苦痛。
その過去の経験を思い出す。
「このまま行けば、出口だ!」
 脇道に逸れることなく、ほぼノンストップで最短距離を走る。
【ラリホーアント】に一瞬眠らされたときは肝が冷えたが、直ぐに覚醒できて、手持ちの薬草で何とかなった。
明るい出口が出て来たときはどれだけホッとしたか。

「早速使ってみるんだぞ」
「その輪に指をはめて、投げるように上に持ち上げるんだよー」
 手にしたキメラの翼をサマルに言われた通りに、高く掘り投げる。
空に引き上げられるような感覚があり、ハッと気づいたら、サマルトリアのお城の前についていた。
「すげぇー! 凄いんだな」
 サマルの肩を揺らして感動したと喜ぶ。
サマルがなんか変な声を出していたが気にしない。

「当たらないんだぞ!」
 銀のカギを手に入れたので色んな場所を開けて回る。
リリザの武器と防具のお店の横で福引き屋を発見した。
薬草を買うときに福引券を二枚程もらっていたのを思い出す。
スロット式の福引きで星や月などのマークを三つ揃えるらしい。
二つ揃えると福引券が貰えるので何度か挑戦する。
惜しいところまで行ったのだが、三つ揃えることができず、結局何も当たらずにその場を去る。
「難しいんだぞ」
「次は当たるといいねー」
 武器と防具を最強まで揃える。
あの洞窟での死闘は無駄でなかったことをこの装備の充実さで実感する。
いつの間にかこの大陸のモンスターが怖くなくなっていることに気付いた。
「強くなったんだな」
 思わず開いたり閉じたりしていた手をじっと見つめる。
「ローレは強いよ」
 サマルにニコニコとそう返されて、そうなのかと純粋に喜んだ。

 リリザの町を出て、もう一箇所、銀の扉のあるローレシアのお城に寄り道する。
「魔除けの鈴は魔法のお守り。眠らされたり呪文を封じ込まれたりすることが少なくなるとか」
「へー。持っていたら楽だね。どこにあるかわからないけど」
 サマルの言葉に【ラリホーアント】との死闘を思い出しながら、頷く。
眠らされたときの辛さが蘇る。
記憶が飛んでいる分、ピンチになったときの絶望感がやばい。
「見つけたら必ず装備するぞ!」
 いい情報を教えてくれた青年にお礼を言う。
他にお姉さんにも、『辛かったら何時でも帰っておいでと』と言われた。
『大丈夫だぞ!』と豪語して、最後の銀の扉に行く。

「牢屋?」
「王子様のような方が来るところではありませぬぞ!」
 長い廊下の先に地下階段があり、そこを降りると牢獄が広がっていた。
ひょっこりと顔を覗かせると、見張りの兵士が驚いて声に出す。
旅に出たと聞いていたこの国の王子が牢屋に顔を出すのだから当たり前だろう。

「おい牢屋のカギは持ってるか? 持っていたらいいこと教えてやるぜ!」
 奥から叫び声が聞こえる。
兵士とサマルの顔を見るがどちらにも顔を横に振られたことで、大声で返事する。
「持ってないぞー」
「ちっ! さっさと行きやがれ!」
 吐き捨てる。
いいことって何だったんだろう。
兵士は鍵ぐらい持っているだろうが開けてくれるわけがない。
この人もどんな悪さをしたんだろうな。
考えても仕方がないのでローレシアの城を後にする。

「そう言えば、何するんだっけ?」
 銀のカギをゲットしたし、この大陸も大概、散策しきった気がする。
「ムーンブルクのお城に行くんじゃないのー?」
「そうだった。ムーンのお城に行くぞ!」
 サマルと会った時に行こうと言っていたことを思い出した。
旅の目的を忘れたわけではないが、現状どこに行けばいいかまではわからない。
取り敢えず、襲われたと言われるムーンブルク城に向かおう。
 中継地点のリリザの町に一泊して、サマルと一緒じゃないと通してくれなかったローラの門に行く。

 ロレンLv.8、鍵開けが楽しく目的を忘れかける。