Lv.20:鍵開けに翻弄した。

「ローレ? 南と東は全然違うわよ?」
 再度の船旅にて、あまりにもアッサリ見つかったため、恨まれる。
「う、ゴメンなんだぞ」
「見つかって良かったねー」
 建物は石造りで山々に囲まれた地の利にも加え、硬い城壁は鉄壁を誇る。
その鉄壁さ故に人々は戦いに飢える。
闘志を燃やす糧が欲しい。
この国の王を筆頭に強い者が好きである。

「ここは戦いの広場。勇者たちのコロシアムでございますわ」
 露出の高い女性がにこやかに案内してくれた。
女性ですら鍛えぬかれた体には戦慄が走る。
「遥々デルコンダルの城によくぞ来た! わしがこの城の王じゃ」
 城内ではなく、コロシアムに謁見間を設ける筋骨隆々の王が豪快に笑う。
「もし、わしを楽しませてくれたなら、そちたちに褒美を取らせよう。どうじゃ?」
 予想通りである。
この国をやっとの思いで見つけ、嬉々として入ったその瞬間に全てを悟った。
ここは強いやつらが戦う場所であることを。
「ローレ、幾ら強くなったって言っても油断しちゃダメよ」
 ここの武器と防具屋の裏で拾っ…頂いたガイヤの鎧は心を強くする。
サシでも良いぐらいの心意気だが万が一負けて機嫌を損ねられたら堪らない。
目的は月の紋章を手に入れることだ。

 

 コロシアムの中央、西にある巨大な檻から見えるは飢えた獣…いや、【キラータイガー】というモンスター。
濃い桃色の毛が不自然な程、逆立ち牙を向いている。
開けられた瞬間に襲い来る。
横に向けた剣でその攻撃を受け止める。
尚も食らいつこうとする牙から滴る涎がこの獣の本気度が伺える。

「マヌーサ!」
 ムーンの魔法が背後から飛ぶ。
上手く目眩しが効いたのか動きが鈍くなる、その隙を見て盾としていた剣を切り上げる。

 勝負は呆気なく終わった。

「え?」
 倒れ動かなくなった魔物に思わず棒立ちになった。
これから本番だと意気込んだ瞬間だったため肩透かしを食らったのだ。

「あっぱれ! あっぱれ! 見事であった!」
 嬉々としての言葉が聞こえそちらを振り向く。
後方で小さく溜息が聞こえた。
後で聞いたら、一方的で単純な試合になったので王が機嫌損ねないか不安だったそうだ。
「わしからの褒美じゃ。月の紋章を与えよう!」
 もともとそこまで価値がなかったのかコピーできるのか、アッサリくれた紋章はムーンの手に渡る。
未だにどうやって出し入れしているのか、わからないが凄いなと思う。

「わしの先祖も竜王の眷属を倒した列強じゃが、そなたらも負けておらぬな」
「ああ…。戦っている男の人って素敵…」
「ま、わしが一番じゃがな!」
 笑い合う御付きと王の会話を聞きながら、脳裏に竜王の曾孫の言葉を思い出した。
もしかして、どちらかがこの国の歴代の王に倒されたのかもしれないと感じた。
聞く間がなかったので真実は闇の中である。

「しかし、まさかここからローレシアのお城に行けたんだな」
 デルコンダルから旅の扉を潜るとローレシアの南の岬に出てきた。
銀のカギの行方を教えてくれた老人に挨拶してから戻る。
確か、金のカギで開けれる扉があったことを思い出したのだ。

 トヘロスと言う偉大な呪文のおかげで平和な道中、デルコンダルで聞けて色々な情報を皆と整理する。
一つは今まで謎に包まれていた山彦の笛の使い道を知ることが出来た。
まさか、五つの紋章に共鳴する、探すのに便利な笛だったとは…。
取り敢えず、新しい土地に行ったら吹いてみようと思う。
後、金のカギの話も聞けた。
まさかもう持っているとも言えず。
タシスンと言う男から現在無断で借りている状態であることに気づいた。
ザハンに出向いたら事後になるが承諾してもらおうと思う。
デルコンダルから更に遥か南にあるのが漁師の町ザハン。
偶然行き着いだけだったので正確な位置情報が聞けたのは嬉しい。
もう迷わないぞ。
占いの老人がいたが、方角だけだったので——しかも北——広すぎるため本当に困ったときに聞こうと思う。

 ローレシアの宝物庫を漁ると何とロトの印が出てきた。
道理で聞いたことがあったわけだ。
宝物庫を警備していた兵士に斬りかかれそうになったが問題なく、双方お咎めなしでローレシアを後にする。
「ロトと言えば、サマルトリアにもあったような気がする」
 サマルの言葉で金の扉開けに行くツアーが開催された。

「〜♪」
「あ、山彦の反応があったんだぞ!」
 金の扉を開けに行くツアーの途中に立ち寄った、三又の旅の扉がある祠のうち中央に大きめの篝火が焚かれている方で山彦の反応があった。
ここが炎の祠だったのか。
音が反響していて場所の特定ができず、見つけ出すのに散々苦労させられたのは置いておこう。

 今回手に入れたものは、サマルトリアにあったロトの盾、虹の祠でロトの印を見せるとくれたロトの兜。
紋章は星、月に太陽が加わり、計三つ。

「ムーンの城にも何かありそうだな!」
 次はどこ行くかと言う時に提案してみた。
「無いと思うわよ。聞いたことないものそれにあったとしてももうないわ」
「そうだねー。宝箱空っぽだったしねー」
「うーむ。残念なんだぞ」
 はやり、うまくいかないものである。

 

 ムーンは不意にベラヌールの町で言われた言葉を思い出す。
『なんと不吉な! あなた方の顔には死相が出ていますぞ』
 あれはどう言う意味だったのだろう。
ムーンもサマルも窮地に陥ることはあった。
だが全てこのロトの御守りが救ってくれている。
まさか、ローレに何か降りかかるのではないか…あるとすれば、彼は直系の血族。
先代の勇者があまり歴史に出てこないのは何かあるのだろうか。
思い通りにいかない不安が心を締め付ける。

「ムーン! サマル! 世界樹の木…どうしたんだ?」
「大丈夫よ。少し不安になっただけ、それより葉はあったの?」
 首を振り何でもないと笑みを浮かべる。
「世界樹の木は、置いていかれた人がいる場所の少し東。ここだったんだね」
 サマルも近づき、のほほんと地図に書き記す。
そこには大樹が一本大きく聳え立っていた。
「って、その言い方はどうかと思うわよ」
 呆れているが笑顔に戻ったムーンに一安心しする。
そして、一箇所上陸できる場所から、そのまま駆け出した。

「ムーン大丈夫だと思うよ」
 追いかけようとした時、サマルが声を掛ける。
ムーンは意図が読めず眉を顰める。
「え?」
「ローレは吹き飛ばしてくれるさ。ロトの装備に選ばれたんだからね!」
 確証のない根拠、しかし自信に満ちた笑みは、ムーンの心の響く。
「…そうね。そうだったわ。あまりにも普通に装備していたから、あれが特別だったこと忘れていたわ」
「そう言うところが、ローレっぽいね」
 クスリと笑い合い、追いつくために走り出した。

 ロレンLv.20、物事は深く考えていない。