「これか」
毒沼の中央に無下に捨てられていたそれ。
鎧と同じく鳥の紋様が象られたメダルのようなもの。
己が求めに求めていたものは、なんとも言えない場所に放置されていた。
『勇者様、お役に立てましたか?』
「…あ、はい」
『嬉しゅうございます。…ぽっ』
王女の愛から漏れる声はとても嬉しそうだった。
王女を助けたのは、ちょいと前。
予想通り沼地の洞窟内で、東南の奥まったところに捕まっていた。
【ドラゴン】が行く手を阻んでいたのだが、メルキドの町周辺のモンスターよりちょっと強い程度だったため、ロトの鎧が手に入った現時点では回復もいらなくあっさりカタがついた。
(待たせてごめんなさい)
第一声に上記の言葉が思わず出かかったがなんとか押しとどめた。
ビビって後回しにしていたのがバレたら、面目が…。
『ラルス16世の娘ローラと言います』
丁寧に自己紹介された後、ルーラで帰るのは怖いし、ドロドロで見窄らしいので面目が立たないとか、一度行ってみたかったお風呂のある村によってくれと、いろいろ言われた。
その願いを叶えているうちに夜になったのでその宿に泊まることになったのだが…。
……まあ、悪く無かった。
「勇者様。勇者様をお慕いしておりますわ」
「……はい」
毒沼に浸りながら遠くを見ているうちに通信が切れる。
手に持っているのはロトの印。
ローラ姫の己の現在地探索機能と傷を負いながら手に入れた位置情報で探し当てた。
「愛とは凄いものだな」
実際はルーラの応用で王女の愛という通信機からラダトーム城へ送られる魔力電波の速度で距離と飛んできた方角で位置情報を把握しているのだが、己の知る由もない。
しばらく佇んでいたが、ロトの鎧は毒沼に浸っていても聖なる保護がされており、毒が体内に侵食することもない。
常に軽度の治癒魔法がかかっている特殊な装備。
そう言えば、途中でベホイミ覚えたな。
ホイミの上位魔法でとっても使える呪文なのに他のことが起こり過ぎて、意識できなかった。
魔力消費がホイミの二倍と半だが、恩恵は約六倍、ホイミの回復量に不満があったので実質有り難い。
「行くか」
太陽の石と雨雲に杖が合わさるとき、虹の雫ができる。
ロトの印がないとそれを導いてくれない聖なる祠にいる賢者。
だが、誰にでも手に入りそうな場所にあるこの印で本当に証明になるのか?
「これぞまさしくロトの印! さぁ、雨雲の杖と太陽の石をよこしなさい」
なったわ。
「俺を疑わないのか?」
「これらを入手するのに片手間ではなかったじゃろう。その実力が証明となる」
短く答えられ、改まった儀式が始まる。
雨雲の杖と太陽の石が光り輝き、見る見るうちに光が収束し行く。
あっという間にでき上がった七色に輝く雫形の宝石を手渡された。
案の定すぐに追い出されたが、お前はもう大丈夫と言われたような気がした。