Lv.10:ムーンブルク城の惨劇を見た。

 ちょっと前の自信はどこへやら、ムーンブルク城を目指すつもりが、ちゃんとした位置を把握してなかったので偉く苦労することになる。

 その最たる原因は【マンドリル】——凶暴な大猿、大きさはゴリラに匹敵する——や【リビングデッド】——人が腐ったようなゾンビ。
【マンドリル】はただただ殴る攻撃をしてくるだけなのだが、その腕力が桁違いで集団で襲われたとき、一度脳天直撃で昇天した。
サマルが『怖かったよー』と町で蘇生後、泣きながら回復する姿には心が痛んだ。
【リビングデッド】はマヌーサと言う視界を奪う魔法をしてくる。
相手が霞みがかっているように見えて、急所を上手く突きにくい。

 この二体と出会ったときは真剣勝負だ。
「サマル回復頼むぞ!」
「はいよー」
 敵の数が多いとどうしても、こちらに引きつけておくことができずに、モンスターがサマルの呪文を阻害し苦労する。
焦っても最終的にできることは、一心にただただ敵を剣で切りつけることだけ。
それらを本能的に察知して残滅する。
鋼の剣を購入してもその戦法は変わらない。
 また道中はサマルの回復に頼っていたため、彼の魔力がすぐ枯渇する。
しかも到着したムーンブルク城はすっかり荒らされており、城内にも強いモンスターが闊歩していた。
おかげで碌に中も見ずに慌てて引き返す羽目に…。
再度準備の行い何度目の挑戦か、漸くたどり着いたムーンブルグ城の一角。

『うわー、ハーゴンが攻めてきた! 助けてくれー!』

 逃げ惑う兵士の姿を模った焔が揺らめきながら叫ぶ。
意思疎通は既にできなくて、唯々同じ言葉を繰り返す。
城は周囲を毒の沼に覆われ、壁は破壊され綺麗だったであろう城壁は内部を剥き出しにして崩れ落ちている。
城一つを破壊できる力。
しかも亡骸はどこにも見当たらない不気味さ、骨をも焼き尽くす威力だと言うことだろう。
あるいは…外にもいたが【リビングデッド】は城内の方に多く徘徊していた。
それは城に住んでいたものが殺され、御霊が離れた肉体をモンスターが憑依し操っているかのように、虚ろな瞳、開きっぱなしの口から異臭を放ちながら、目的なく歩く。

 それらを行なったのは大神官ハーゴン。

「何のためだろうね」
 サマルは祈りを捧げるような仕草を取り、唇を噛みしめる。
なぜ事前に感知できなかったのかと悔しさで渦巻く感情。
「わかんないんだぞ」
 いくら詮索しても出ない答え。
叫び逃げ惑う霊魂に安寧の祈りを捧げ奥へと向かう。

『我が娘マイコは呪いを掛けられ、犬にされたという。おおくちおしや』

 玉座の間にいるムーンブルグの王は嘆き悲しむように、同じことを繰り返し彷徨い歩く。
「犬?」
「ムーンペタに居たねー」
「娘?」
「ムーンブルクの王女様のことだろうね」
 つまり、生きて居たのか。
不幸中の幸いと言うべきか、呪いにかけられたようだが無事だと言うことだ。
歓喜に踊る、期待が高まる。
ここに来たことは無駄ではなかった。
目を輝かすとサマルも頷いてくれた。
「呪いを解く方法を、早速探しにいくんだぞ!」
「どこにあるんだろうねー」
 皆目見当がつかないと首をかしげる。
気合が少し空回りしつつ、散策する。

「うーん。見つからないぞ」
 ムーンブルク城の壊された宝物庫にあった宝箱を含めて隅々まで探したが、手に入れたのは情報のみだった。

『東の池に四つの橋が見える小さな沼地があるという。そこにはラーの鏡が!』

「四つの橋はどこだー」
「ムーンブルク城の東だから、山一つ向こうかなー」
 呑気に会話しつつ死闘を繰り広げる。
場所の見当はついた、後は探すだけだ。

 魂だけとなった兵士達の情報に従えば、ハーゴンの呪いで殺されずに犬にされているムーンブルグの王女がいる。
彼女の呪いを解くためにはラーの鏡が必要。
ラーの鏡はこの四つの橋が見渡せる沼にあるはずなのだが、見つからない。

 ここであっているはずとひたすら探す。
毒沼の中とあってガリガリと体力が削られる。
解毒魔法のキアリーもこの毒沼内にいる限り効果はない。
何箇所かあたりをつけて探す、そこまで広い沼ではないので、すぐに見つかるはず。

「見つけたぞ!」
 やっと、周囲に綺麗な装飾がされている円形の鏡を見つけた。
中を覗き込んだが特に何もなかった。
「丁度、ルーラ覚えたから帰ろー」
 大事に抱え、サマルの場所に戻ると、ニコニコと報告してくれた。
 ルーラ、転移魔法で最後に訪れた場所に瞬時に移動できるキメラの翼の魔法バージョン。
本当に魔法とは便利なものだな。
毎度お馴染みの説明を聞きながら感心する。
「あ、魔力足りないみたい」
 結構、魔力を使うみたいで不発らしい……。
地味にピンチではないだろうかと体力の減った体で、危機感を抱く。

 結果的にキメラの翼を持っていたため、帰還のピンチは事無きを得て、ムーンペタの町に普通に戻って来た。
「泥だらけだぞ」
 値打ちがあるっぽいが泥だらけのラーの鏡のままで大丈夫なのかと不安になる。
「そこの川で洗う?」
 サマルの提案で、完全に落ちないだろうか、やらないよりマシだろうと、水で洗ってみた。
その足で慰めてくれた人懐っこい犬に鏡を当てたのだ。
この犬だと、確信があったわけではないが、そうだといいなという希望もあった。
人というのは疲れると思考の巡りが悪くなる。
いや、元々そんなに巡らしてなかった気もするが…。
取り敢えず、何も考えずにその犬の姿をラーの鏡に移した。

 ロレンLv.10、眩い光に包み込まれる。