今日は誰にも文句を言わせない。
だって、ちゃんと宿題も終えたし、きっと夕食まで誰もミーティアを探しに来ない。
ということは、それまでエイトと遊べるわけで、今日は庭の花を探索しようと考えながら、
エイトがいる場所を探し始めた。
「あら、姫様。今日の勉強を終えたのですか?」
そろそろと厨房を除けば恰幅の良い女将さんが話し掛けて来た。
この前のような失態は二度としたくはないから。
「ええ、ちゃんと宿題も終えました。ところで…」
「エイトかい? 上の階の所にいますよ」
「ありがとう!」
出していた顔をすっと納めて嬉しそうに掛けて行った。
その光景を見て厨房内は微笑ましい雰囲気に包まれた。
「エーイート! 何をしているの?」
「あっミーティア…ジャガイモの皮剥きだよ」
「えっ、これ全部独りでやるの?」
皿に山盛りに詰まれているジャガイモが2セット。
一つは半分ぐらいに減っていたがまだまだ沢山あるようだ。
エイトはミーティアの言葉に小さく頷き、日が暮れるまでに終えないといけない。
さっきまで一緒にやってたけどその人は別の用事でここにいない付け加えたと言った。
「えっ、日が暮れるまでって後2時間ぐらいしか…」
「うん、それまで頑張ってやるよ」
ニッコリ笑って皮を剥きを再開する。
これでは、さっき立てた計画が実行できないではないか。
小さな溜息をつき、黙々と作業をしているエイトを見る。
手捌きは上手いとは言えないけど、危なげなさや材料を無駄にするような下手さはなく慣れたものである。
でも、この前は馬小屋で掃除していたし、色んなとこで色んなことをしてるのだろうかと思った。
しかも、ミーティアは一度も触らせてもらっていない刃物まで大人もいなくて一人で扱うことを許されている。
「面白くないわ」
そう呟くと、ビックリしたようにこちらを見た。
「だってね。エイトはミーティアの出来ない事や遣らしてくれない事を遣らしてもらってるのよ。羨ましいわ」
そう言ってからミーティアは包丁の方に視線を落とした。
エイトも釣られて落とし、時間との戦いのはずなのに停まっていた手を再び動かしはじめた。
「それは仕事だから…これが王様がくれた僕の仕事だからだよ」
「えっ…仕事」
そうか、そうよね。
ミーティアが羨ましがるものではない。
「必要なものを扱い方を教えてくれる。ミーティアもきっとミーティアがしなければならない仕事があるよ」
「ミーティアの仕事? 毎日作法とか憲法とかダンスとかその他いろいろどれをとっても役に立つとは思えない」
「う~ん。今は役に立つかどうかわからないけど無駄じゃないと思うな」
「だったら、エイトも受けてみるといいわ。ミーティアがお父様に頼んであげる!」
「えっ…?」
「そうよ! そうすればエイトもミーティアの仕事が何に役立つか解るわ」
「ミーティア?」
話がど偉い方向に行ってないか? とエイトは無償に不安を覚えた。
「エイトありがとう。ミーティアはやる気が出ました。エイトのおかげね」
使命に燃えているミーティアにエイトは声を掛けることが出来なかった。
さっきからろくに皮剥きも進んでないし…間に合わないかもと弱気になった。
「膳は急げと言う諺があるのでミーティア早速お父様に話しなくては…」
すくっと立ち上がり、エイトまたお話ししましょうと言って立ち去った。
「……ミーティアは今日も元気だね」
トーポに笑い掛けてから、よーし、僕も頑張るぞ! と、先程の弱気はどこえやら、ショリショリと皮剥きを再開させた。
それから数日後
姫様のご要望でエイトが週3回、ミーティアと一緒に勉強している姿を見ることが出来る。
勉強が捗ったかと言うと、それは秘密にしときましょうか…。