Lv.16:ラダトーム城へやって来た。

「風が気持ちいいわね」
 港町ルプガナから船で東に向かう。
その先にローレシアを建国したローラ姫の故郷、ラダトーム城がある。
そのラダトーム城がある大陸全体——周囲の島々も含む——をアレフガルドと言う。
この世界ができてから、最初に文明ができた土地と言われている。
そこから世界へ人が広がりこの世界全土がアレフガルドになったとも言われているため、全世界全てをアレフガルドと呼ぶ場合もある。
この辺りは神話時代に遡るため、研究者の中でも意見が分かれているらしい。
「ご先祖様の国に行くことができるとはねー」
 サマルが感嘆を洩らす。
三人共ラダトーム城には行ったことがない。
特に国交がなかったわけではないが、ロト三国と比べて少なかった。
その原因は先代の勇者がラダトームで王位を継がず、新しい国を作ったことが起因すると言われている。
これらが全部サマルとムーンが会話していたのを聞いて知った内容だ。
二人は物知りだ。

「そう言えば、財宝どうするの?」
 ムーンが視線を外から内に戻し、尋ねる。
「嵐の夜に難破して財宝が沈んだんだよね」
 船を出すときに、しょげている商人の男を見つけて訳を聞けば、そう教えてくれたのだ。
その商人もどこで沈んだか皆目見当がつかないため、希望薄くもし見つけたら持って来て欲しいと言っていた。
探しに行きたくても海の魔物が凶暴になりつつあって、早々に船を出せなくなっているそうだ。
定期便もうまく運行できていないのが現状らしい。
そう思うと、今現在、船を借りれたのは相当ラッキーだったんだなと思う。
近場の陸地で船を止め、徒歩でラダトーム城に向かう。

「ラダトーム城か、いい噂聞かなかったねー」
「そうね。ルプガナにいた兵士が『あの国もすっかり変わってしまった』って言ってたわね」
 憧れだった土地に一体何が起こったと言うのだろう。
「取り敢えず、行ってみるんだぞ!」
 考えても仕方がない。真実は行くまでわからないのだから。

 この土地のモンスターは【まじゅつし】より強い【きとうし】——ぱっと見はよく似ているが紫色の服を着ている——や【しにがみ】——オレンジ色の衣を纏い鎌を振り回す、浮遊物体——がいる。
油断しなければ、何とかなるが、一瞬たりとも気を抜けない。
【きとうし】にマホトーンがなかなか効かないのがネックである。
【しにがみ】の振り回す鎌はまさに死に直結するか如く鋭く、その名の由来を垣間見た気がする。
耐性もあり、ラリホーが効かないのが痛い。
【グレムリン】も普通に出現し、火の息で全員を焼こうと仕掛けてくる。
一筋縄でいかなくなって大変である。

「あなた方はもしやロトの勇者の子孫の方々ではっ?」
 たどり着いた城内、こちらが認識する前に一人の男が駆け寄りそう尋ねて来た。
「そうなるのか?」
「先代の竜殺しの勇者が勇者ロトの血を引きし者だから、そうなるねー」
 サマルに頷かれて、そうなのかと改めて思う。
そう言えば、父王が旅立つときにそう言っていた気がする。
子孫という枠組みになるんだな。
「おお! やはりそうでしたか! お帰りなさいませ!」
 暖かく迎え入れられて少しこそばゆかった。
フレンドリーに迎え入れてくれるのに、なぜ、あの兵士は変わってしまったと嘆いたのだろう。
なんて考えていたがその原因が直ぐにわかった。
会見を申し込むと即座に通された玉座。
その謁見の間の本来いるはずの王がいないのだ。
ハーゴンの存在を聞くや否や姿を消した王。
この国を守る近衛兵は情けないと嘆いていた。
 過去の禍の時にあの手この手で打破しようとし、預言者の言葉通りに勇者を探しだし、平和へと導いた嘗ての賢王の面影が現王にはないらしい。

「うーん。高いんだぞ」
 城にいても意味がないと思い、城から城下町へと戻る。
ついでとばかりに、武器と防具の店に寄り、売っていた大金槌(4000G)に手が出せず唸る。
魔道士の杖は買えそうなので買ってムーンに渡す。
 財布が軽くなってきたし船旅も長かったので、今日はもう宿に行き明日以降の相談をして休もうと言うことのなったのだが…。
「サマル! ムーン! 宿代が安いんだぞ」
 一泊6Gと言う破格の安さに感動する。
嘗て、勇者が利用した名誉ある宿屋で、冒険者にはこの値段で泊めるのが流儀と成っていると宿主が説明してくれた。
全くありがたいことだ。

「今後なんだけどね。竜殺しの勇者が辿った道筋をたどるのも悪くないかなって思うんだ」
 ここの王族出身であるローラ姫のことは良く歴史書に載っているのだが、竜王を倒しこの世界を救った勇者のことは、あまり載っていないのだ。
勿論、英雄となった経緯は載っている。
姫を救い光の玉で世界を平和へと導いた。
そう、遥か昔にこの世界を救った勇者ロトのように…。
「面白そうなんだぞ!」
「そう言うの、好きそうね」
 目を輝かせると、ムーンが優しく微笑んでくれた。

 ご先祖がそうしていたようにラダトーム城を起点として、嘗て町があった場所に訪れる。
今はもう存在しない町。
皆が視野を外に向けたことで、ゆっくりと廃れていった。
勇者がローレシアを築いたことも起因するらしい。
この辺りと突き詰めると頭が理解を拒絶してきたのでこれ以上は考えないようにする。

「ここが嘗て要塞都市と言われていたメルキドなのね」
 ラダトームの城から南西部に位置するこの場所、さぞかし立派な要塞だったのだろう。
竜王の脅威から人々を守る強固な壁、守り神をも作ったとされているこの場所は、手入れする者がいなくなり朽ち果てていた。

 たかが百年されど百年と言うことだろうか。
ここで起きた悲しい歴史の爪痕。
早々に考えるのを放棄して今は跡地として残る歴史ある町を次々に巡る。

「今の場所は聖なる祠よね」
「印を持ってこいだってさ、変わらないところもあるんだねー」
 伝記にも載っている文言に二人はくすくすと笑う。
ロトの印か、なんか引っかかりを覚えたが、雲をつかむようで思い出せなかった。
取り敢えず見つけたら持っていこうと心に刻む。

 ロレンLv.16、偉人が描く思いはわからない。