Lv.6:サマルが棺桶になった。

 勇者の泉の捜索を終えて、満足したその帰り道に悲劇は起きた。
丁度、ローレシアのお城への近道である毒沼を渡っているときである。

「ちょっと待って……」
 引き止めるサマルにどうしたのかと振り返ると、崩れ落ちる彼の姿があった。
思わず駆け寄り抱き支えるも、光がサマルの周りを囲い、十字のマークのついた緑を基調とした箱、棺桶になった。
「サマルが死んだぞ!?」
 突然の出来事に、脳内は大混乱。
しかし、どこか冷静な自分もいて、その棺桶を引きずりながら、近場のローレシアのお城へ向かう。

「………」
「………無理なのか?」
 向かい合う神父には状況がわかっているのか、冷や汗をダラダラと流している。
その状況に既視感を覚える。
なぜ神父が何も言わないかを悟った。
ローレシアはダメかもしれない。

 取り敢えず、役に立たない神父はその場に放置して、近くの町であるリリザに駆け込む。
行く手を邪魔するモンスターにはきっちりと犠牲になってもらった。
全ての敵が薙ぎ払うように一撃即死である。
 全速力で走った所為か、息も絶え絶え、教会に駆け込み生き返らせてもらうように頼む。
必死過ぎて、殴り込みの様な形になってしまい、慄かれたのは苦笑な話である。
神父が行う御霊を呼び戻す作業は、普通の回復魔法と違い、蘇生魔法と呼ばれている。
生命の危機に陥った人を生命力もろとも復活させるものらしい。
魔法について詳しくない為、軽く流すことにした。

「ごめんよー。回復しているつもりだったんだけど、上手くいかないなー」
 生き返らせてもらったサマルは謝りながら、立ち上がる。
既に棺桶は見つからず首を傾げる。
状況が飲み込めずに目を瞬かせる。
その姿を見て、サマルは神父と一緒に噛み砕いて説明してくれた。
サマルも持っていたロトの御守りは、近くに仲間がいる時——双方のロトの御守りが共鳴し合える位置の場合——は、完全に死んでしまうことを回避する為に、瀕死になると生命機能を停止させる棺桶を形成する。
それは然るべき時に蘇生ができるよう考慮されているものらしい。
わかったような、わからないような。
「ぼくが棺桶に入ったら、教会で生き返らせてねー」
 頭に疑問符が飛び交うまま、最後に言われた言葉だけを覚えておくことにする。
「わかったんだぞ」
 しかし、寄付金で100Gも取られたし、簡単に生き返ると言ってもあんまり死んでほしくないと思う。

 リリザの町に来たついでに買い物をする。
使い切っていた毒消し草と薬草を補充し、武器屋で鎖鎌(390G)を購入。
この辺りだと銅の剣でも既に一撃で倒せるので、攻撃力の低いサマルに渡す。
「上手く扱えるかな」
 じゃらりと少し困惑する様子が伺えるが、装備できるのなら経験はあるのだろうと、流す。
そして、そのまま当初の目的であるローレシアのお城の南にある祠へ向かおうと思った。

「えぇぇぇ!?」
 町を出た直後に、出て来たモンスターの一撃で棺桶に入ったサマルに驚きすぎて何も言えなかった。

 

「悪かったんだぞ」
「んー、ぼくも油断してたからねー。生き返らせてもらってからの回復を忘れていたよ」
 翌朝、目的の場所に向かいつつ互いに反省会を行う。
ローレシアのお城方面のモンスターは既に強い魔物もいなく、気軽なものである。
反省会と言っても、死なない配慮をする為、小まめに回復するとか、逃げるべき時はきっちり逃げるとか、そんなとことだけだが…。
そして、誰かが死んだら、その日一日ゆっくりする。
これが一番重要事項となった。

 出会った当初に比べ、サマル自身も徐々に力を蓄えてきて、軽快に進む。
「魔力も溜まったし、ホイミやギラの呪文が使えるよー」
 そう魔法だ。
全く使えないので忘れがちになるが、便利なものだ。
『ホイミ』とは、前にモンスターも使っていた回復魔法。
そして、今回、使えるようになったという攻撃魔法『ギラ』
今装備している銅の剣での攻撃よりちょっと強い威力を発揮するという。
「便利なもんだな!」
 薬草の代わりや、遠距離での攻撃ができるなんて、素晴らしい。
鎖鎌の扱いはソコソコだがそれを差し引いても、良いものだ。
魔法が使えたらなとは思うが、爺から魔力の欠片も感じないと言われてしまっているので諦めている。
ないものを欲しいと思い続けるのは疲れる。
人間諦めが肝心だ。
「魔力が切れたら、何もできないけどねー」
 魔力の管理が大変なんだな。
サマルの言葉にそこは覚えておこうと思う。

 ロレンLv.6、生き返り直後は十分な休息が必要と知る。