Lv.4:勇者の泉を目指した。

「えっと、泉はここからずっと東だな」
 再びサマルトリアの城を出る。
途中で『毒を持つ敵がいる』と忠告を受けた。
そのため、城下町で毒消し草も一個だけ購入する。
薬草もきっちりと確保し、ひたすら平原の続く谷間を東に歩く。
少し慣れて来たけれど、まだ強い。
ここをすんなり通ったというサマルトリアの王子は、相当強者だと思う。

 半分ぐらいに道のりを歩いた頃、新しいモンスターに出会った。
名は【ホイミスライム】——青い体に黄色い足のある海月状の魔物である。
ふよふよと浮くその物体はその名の通りホイミという傷を癒す呪文を使う。
こちらの攻撃が相手のホイミの回復量を上回ることができなかったのか、長引く戦闘。
こちらが攻撃を繰り返すも相手は回復をばかりで、攻撃、回復、攻撃、回復……。
どれぐらい繰り返したか、倒せたときは感動の雄叫びを上げた。
今回は単体で出て来てくれたから何とかなったが、これが他の攻撃性のある魔物と一緒に出現していたとしたら、どうなっていたか。
想像するだけでゾッとする未来しか描けない。
「危なかったんだぞ」
 ふうと溜息をつく。
ここ周辺モンスターはやはり強い。
 それから、野を超え、山を超え、橋を渡り、右側に山脈、左に海が見えて来て、このローレシア大陸の外周をくるりと回された気分である。
 正確な地図を所持していたら、大陸の中程にあるリリザの町を北上してサマルトリアのお城となり、そこから東へ戻っているという形であるとわかっただろう。
つまり、現在はローレシアのお城が丁度真南にある地点にいるのである。
山脈が東西に伸びており、直線で南下するのは不可能なので、少しわかりにくい。

 そして、二度目の挑戦は薬草の数は減ってしまったが、ピンチに陥ることなく、目的地に到着した。
ここはローレシア大陸の北東にある岬、そこにぽっかり空いた穴がある。
この穴を潜ると中は洞窟になっていたらしく、少し入り組んでいる。
中にもモンスターはいたが、ここまで来ると戦い方も慣れたもので、魔物の群れが来たときは、ダメージを食らう前に一撃で倒せる奴から先に倒す、と言うのを自然に覚えた。
ただ、ここの主だろうか? その名は【キングコブラ】である。
その名の通り大きなコブラ。
赤い縞模様が印象的であるそいつは、毒のついた牙で襲ったり、蛇のように締め付けたりと多彩な攻撃を繰り出す。
そのコブラに毒攻撃を一度、食らってしまって少し慌てたが、途中で毒消し草の存在を思い出して、事無きを得る。
洞窟もいろいろ複雑で、奥が気になるが体力的に断念する。

「若者よ、勇者の泉で体を清めて来たか?」
 洞窟の奥の泉に行く途中にここの見張りか、一人の屈強な兵士が聞いて来た。
おかげでここが勇者の泉の洞窟であると確信が得られた。
「これから行くんだぞ」
「そうか。戦いに旅立つものは、勇者の泉を訪ねるのがローレシアの習わしだ」
「そうなのか!」
 知らなかったので驚く。
危うく逃すところだった。
サマルの王子もその習わしに従いこの地へ向かっていったということになる。
尚更、この泉に立ち寄ってくれたことを感謝する。

 この習わしは、過去の戦いで傷付いた先代の勇者がこの聖なる泉で身を清め、再び挑み、勝利を掴んだことから始まったとされている。
一体どこの誰と戦ったのか。
この大陸に強い魔物がいたのか。数々の疑問が湧く。
確かにこの旅は未だ過酷であるが、他の場所より、この地の魔物は弱いと聞いている。
つまり、先祖は強い魔物を根絶する程の実力者だったという事になる。
その先祖に深傷を負わした相手が不明という事実が、後々疑問となり一騒動となるがそれはまた別の話である。

「サマルの王子? あぁ、サマルトリアの王子か。一足違いであった。王子は、今頃ローレシアの城に向かっているはずじゃ」
 泉に着き無事に清めてもらった後、管理している老人に、サマルトリアの王子のことを訪ねるとそう返って来た。
何と追いつくつもりが既に旅立ってしまっていたとは…。
「わかった。今から向かうぞ」
 しかも、ここからローレシアに向かえるんだな。
泉のお陰で気分がすっかりリフレッシュしたので、そのまま追いかけるべく、南下することに決めた。

「や、ヤバいんだぞ」
 歩く毎にじわじわと体力が取られて行くのを感じる。
ローレシアのお城に戻る途中、【バブルスライム】——緑色で【スライム】が溶けかけているような物体——の攻撃で毒を貰ってしまった。
そいつは何とか倒せたものの、毒消し草は既に使ってしまったので所持しておらず、ひたすらローレシアのお城に向かって足を進める。
途中に敵が飛び出てくるも、逃げる、その逃げるときにも体力が減らされている気がする。
ひたすら湖やら大きな山に邪魔され南東に大きく、迂回して歩く。
歩き続ける。
合間合間にその場凌ぎの薬草を使う。
南下終え、北西に進路を変えることができた頃、顔ぶれが最初に出会ったモンスターとなってきた。
これでローレシアの城が近いことを悟る。
「もう少し…」
 最後の薬草を使い。
逸る足でローレシアの城の中にいる神父のところへと急ぐ。

「正しきカミは正しき者の味方なり!」
 前と同じく、力説する神父を見つけて声をかける。
「………毒治療をして欲しいんだぞ」
 笑顔で出迎えてくれた神父はギクッと体を震わせる。
「…………行く先々の教会を、た、訪ねなさい」
 視線をそらせれて、前に言ったことと同じ言葉を繰り返す。
「……ここではできないのか?」
「き、きっと助けになるでしょう」
 これでもかと言うように冷や汗を流しながら、必死に視線を合わせないようにしている。
「…………」
「…………」
 埒が開かない。
今の状態でも徐々に体力が削られて行く。
城下町へ戻り、毒消し草を買いその場で使う。
蝕まれているものが消え、体のダルさが一気に解放された。
「大丈夫かい?」
「おう! 助かったぞ」
 心配してくれた道具屋に笑顔を向け、その場で更に三枚ほど購入する。
一枚8Gだから、そこまで財布も痛くない。
ついでに薬草も持てるだけ買う。
 ここまで流れるように動作した後、いい感じに緊張感が抜け、思わず大きな溜息が出た。

 ロレンLv.4、毒消し草の大切さが身に染みる。