Lv.xx:過去の追憶。

「なあ、おれには何で魔力が無いんだ?」
 魔法学の基礎を勉強中。
魔法の成り立ち、魔法陣の判別、形成方法などの教科書をペラペラと捲りながら尋ねる。
この炎を出すにはと、爺の手から魔法陣が形成され、炎が浮かび上がる。
その炎は基礎中の基礎ギラである。
剣を片手にその光景を見ても『手から火が出て放たれた』と言う一文しか出てこない。
魔法陣形成を行う段階での『魔力を練る』と言う意味が、まずわからない。
少なからず人は魔力を持って生まれてくると言われている。
その根底が空なのである。
練るものもないし、吸い上げると言う意味もわからない。
何もかも言われた言葉として認識できるが、それが何を意味して、どう言う感覚なのか皆目見当がつかない。
理解できないでいると、その度にこう言われるのである。
『あぁ、王子は魔力が無いですからな』
 体感で理解するものが初めから無いとなると、まさに絵に描いた餅である。
仕方がないと言う言葉の後、次のステップに移るため、何とも言えない蟠りが心に蓄積して行くのである。

「なぜでしょうな。爺にもそれはわかりかねます」
 杖を支えに空を見上げる。
何かを思い出しているようである。
「昔からこの地で見ておりますが、先代の勇者から今までそう言うケースは当てはまらずですぞ」
 そう、無いのである。
正確には魔法として使用できるほどの魔力が無い者には複数心当たりはある。
だが、王子のようにゼロと言っていいほどのものは、ここに来て長い人生でも初めてのことである。
「爺にもわかんないか」
「爺に言えることは人には役割があり、時期が来たら自ずとそれを理解することができましょう」
「おう!」
 今はわからずとも、何れわかる時が来るかもしれない。
長所は全ての装備が使用できること、力が人より強いこと、それぐらいである。

 そう、それがローレの役割。
人の腕力では無理だと言われている破壊神シドーをも破壊できる力。
究極の技を喰らい、自己修復を止めた体に剣を突き刺すのは何とあっけないことか…。

 

『破壊の神シドーは死にました。これで再び平和が訪れるでしょう』

 鈴の鳴るような声が聞こえた。
精霊の祠で聞いたルビスの声と同じようで、違うようにも聞こえる。
なぜか、凄い懐かしい記憶を思い出した。

『私はいつもあなた達を見守っています』

 歴戦の勇者であれと言われ続けて、ここまで来た。
我武者羅に剣を振り回して来たとも言う。
そこは最後まで変わることは無かった。
なのに最後のは、あれは…魔法?
剣を握る手を見ても、いつもの見た目で何も変わらない。
魔法とは相変わらずのよくわからない存在である。

『おおカミよ! 私達の可愛い子孫達に光あれ!』

 暖かな光に包まれる。
今までの疲労が嘘のように回復した。
全ての力を出しきり、座り込んでいたが、皆、立ち上がり、辺りを見渡す余裕ができる。
瓦礫で崩されていた塔の天井から、陽の光が差し込んでいた。

『さあ、お行きなさい』

 その言葉を最後に声は聞こえなくなった。
勝った。
あの破壊神シドーを打ち破ったのだ。実感が湧かないまま、呆然とする。

「…精霊ルビス。彼女に愛されたものは、特別な使命を帯びる」
 サマルは宙を見つめてボソリと呟く。
「されど、とある重大な時期、ルビスは姿を一切現さなかった」
 ムーンも重ねるように言葉を紡ぐ。
「あくまで仮説であり、確証はないけれど、もしかするかもしれないわね」
「成る程、そりゃー。僕たちは凄い血を受け継いだもんだ」
 クスクスと笑い会う二人。
その声に呆然と見上げていた視線を戻し、振り返り首をかしげた。
「どう言う意味だ?」
「うーん。どう言ったらいいかな。ローレの…」
 どう説明しようか頭を捻るサマルにムーンが止める。

「新たな伝説が始まると言うことよ!」

 

 サマルを促し、ルーラを唱えてもらう。
道中でいた凶悪なモンスター達の姿が消えていて、漸く倒したのだと実感が湧く。

 最初に向かったのはラダトーム近郊の洞窟の奥にある城。
【ドラゴン】を従え、佇む一つの影。
「おおローレ! 良くぞやってくれた。わしはとても愉快じゃぞ。昔のことはともかく、わし達は良い友達になれそうじゃな。わっはっはっ!」
 倒したと告げると愉快そうに笑う竜王の曾孫がいた。
その【ドラゴン】に全滅させられたことがあるのだがと言いたい。
しかし、相変わらずのマイペースである。
本当に良い友達になれそうな気がして来た。
「おう! 元気そうで嬉しいぞ」
 竜王との固い握手。
この姿を歴戦の彼らは望んでいたはずだ。
そう思うと嬉しくなった。
その傍で、伝説のロトの剣が満足そうに煌めく。

 ムーンブルク城、サマルトリアのお城と順に巡る。
傷跡も多く、ムーンがそこで何を思い祈ったのかは、わからない。
嘆きの根源が去り、王の魂は光の見える方向へ漂い登っていったのが、わかったぐらいである。

「うわ!?」
 最終報告にて、我が城ローレシアに戻ると玉座の間に向かう道に兵がズラリと並んでいる。もう、平和になったことが伝わっているのかと慄く。
思わず振り返ると、一歩後方で待機している二人に目が会う。
「なーに? 照れるなんて、あなたらしくないわよ」
「さあ行きなよ」

 想像以上の歓迎に目を白黒したが、促されるまま、父王のいる場所へ歩みを進める。
ゆっくりと跪き、真っ直ぐに見つめる。

「大神官ハーゴン及び、その崇める破壊神シドーの討伐完了をここに報告するぞ」

 一斉に鳴り響くファンファーレと歓喜の声。
こうして、このアレフガルドに再び平和が訪れたのである。

 END