それぞれの居場所

 漕ぎ出した大海原。
どのぐらいの世界を巡ったであろう。
壊れ知らずの不思議な船は三人だけでも、きちんと動く。
そこまで大きい船では無いが魔法の帆は風を受けて舵通りに動くのだ。
魔物は襲ってくるが、撃退すれば問題がない。
更にムーンの魔除の呪文『トヘロス』が有れば、モンスターの出現率がグッと減り、船旅はかなり安全となる。

 そんな気ままな船旅。
舵は皆、順番に握っているので後の二人は各々好きな場所で待機する。

 このメンバーで唯一の女性であるムーンは屋根のある部屋の中にいることも多いが基本は甲板の左サイドで風に揺られている。
「さあ、潮風に揺られているのが、心地よいのかもしれないわね」
 無意識だったのか、少し考えて返答する。
内陸にあったムーンブルク城では感じない海の風。
盆地であったその場所は乾燥していたのでよりそう感じるのかもしれない。

 質問主であるサマルは帆柱にもたれて、過ごすのが好きである。
「何となく、一番安全そうじゃ無い?」
 一番海と無縁であった彼らしい回答である。
サマルトリアのお城は内陸の森に囲まれた場所にある。
船の知識がある訳では無いので、確証があるわけではない。
ふと、何かあった時——嵐にあったり、魔物に船ごと襲われたりした時——に海に掘り出されずに済むような気がする。

「そう言えば、ローレの居場所はどこなのかしら?」
 彼なら舳先に行きそうなイメージではある。
しかし、そちらに視線を向けてもその姿はない。
「ああ、ローレは後ろだよ」
 サマルは船尾の方を指を刺す。
そちらへ視線を動かせば、確かに彼はそこに居た。
少し高くなっている場所に腰を下ろし、流れゆく景色を眺めていた。
「何を見ているのかしら?」
 ムーンは近くにより、目線を同じように向けて質問する。
「ん? どうしたんだ?」
 現実に意識を戻されたからか、キョトンとムーンの方を見る。
「ローレは良くここにいるね」
 サマルも反対のサイドに腰を下ろし笑う。
「通った筋が見ていて、面白いんだぞ」
 船により海をかき分けできた白い筋、それが遠くまで伸びている。
それはまるで自分たちが歩んだ軌跡のようにも見えた。
「確かに面白いかもね」
「そうかもしれないわね」
 二人は目を細めて、肯定する。
海辺にあるローレシアのお城は、一番海と密接な関係だったのかもしれない。

「ところで、今誰が運転してるんだ?」
 三人並んでのほほんとしているが、この船には三人しか乗っていない。
この船は止まっておらず、ゆっくりとだが進んでいる。
「おっと、忘れていた。持ち場に戻るよ。もう直ぐ大陸に着きそうだ」
「おう! よろしくな!」
 サマルが慌てて立ち上がり、操舵へと戻る。
ムーンも見送ってから立ち上がり、ローレに手伸ばす。
「大陸を見に行きましょう」
「おう!」
 ローレも笑顔で立ち上がり、二人で船首へと歩み出した。

【それぞれの居場所】