「イレブン!?」
「あれ? カミュがここに来るなんて初めてだ」
少し驚いたように目を瞬かせる。
ここは忘却の塔。
既に忘れ去られた場所。
最初は誰だっけ、ベロニカだったかな。
ケトスに乗らないと来れないのに…。
これじゃ何時になっても、つけられているのに気付かない鈍感野郎だね。
自嘲気味に笑う。
もしかしたら、一番最初に皆が皆で『行くな』と止めてくれた事が嬉しくて、ずっと覚えていたから、敢えて見過ごしてしまったのかもしれない。
決意は揺るがないと言うのに…。
「おいイレブン。お前何周するつもりだよ!」
「そこまでバレているのか」
隠すのはだいぶ慣れたと思っていたのに…。
どこがおかしかったのかな。
ああ、慣れ過ぎて逆に周囲の感情に鈍感になってしまっているのかもしれない。
反応が予測できてしまっているから、見逃したのかもしれない。
だけど、何度も時を巡っているなんて、バレたくなかったな。
「おい、イレ…」
「まだダメだよ。まだ完璧にクリアできていない。皆を救えていない」
「もう止めろ。世界の全ての人を救うなんて無理だ!」
もう、十分に多くの人々を救っているじゃないか。
世界の人々も傷つきはしたが全員生きている。
全員生きているだって?
カミュは本当にそう思っているの?
ほらちゃんと思い出して、最後の最後で何かが救えてないんだ。
最初はベロニカと多くの人々。
次はホメロスと町の人々。
次は…お母さんとお父さんと城の人々。
次は…xxxxとxxxxの人々。
次は…。。。
次は…。
あれ何度目だっけ?
「カミュ…勇者は諦めちゃいけないんだよ」
「…イレブン」
女王のセレン様が教えてくれた大切な言葉。
大丈夫、ちょっとずつだけど、ちゃんと救えているのが分かった。
セレン様の言葉は本当だったんだと、実感できている。
だから、最後まで諦めない。
もうこれ以上強くはなれないけれども、ニマ師匠に教えてもらって寿命も弄れるようになったし、この前覚えた【アストロン】の上位の能力で、体感の時間を飛ばせられるようにもなった。
失敗しても何時でも宝珠を割れば時間を遡れる。
「だから、何も問題ないよ」
おかしいな。
ちゃんと笑えているはずなのにカミュがとても苦しそうだ。
「違うだろ。そうじゃないだろ。どの記憶が本当なのか、もうグチャグチャになって来たけど、お前は…」
ごめん。そこから先は聞きたくない。
一番はじめの情けない姿を、勇者として何も救えなかった愚者を思い出したくない。
「カミュ、次はローシュだけでなく、ウラノスもちゃんと救うよ」
会話を強制的に切り、何の躊躇いもなく勇者の剣を振り下ろす。
「やめろぉぉぉーーー!!」
砕け散る宝玉。
光の渦が辺りに広がる。
その中で、勇者はとても和かに笑えていた。
「またね」