青藍の旅芸人

 皆が寝静まった夜。
シルビアは眉を大層に寄せて渋い顔を作っている男に話しかける。
「もう答えが見えているのに何をためらっているのかしら」
 男は相変わらず答えない。
明日はもうリベンジすると言うのに…。
シルビアはビシッと指差し、眉間のシワをグリグリする。
「あの子が強いのは皆から、愛をもらっているからよ」

 両親からは勇気と光を
 育ての母と幼馴染からは諦めない心を

「勿論、アタシ達仲間、皆彼をサポートし上まで上り詰められるように、力を貸したわ」
 シルビアは語る。
彼への思いを…。

何故、力を貸したのか?

「その答えは簡単、彼だから力を貸したのよ」

 皆がそれぞれの思惑で仲間になった。
きっかけは、勇者だからってのはあると思う。
シルビア自身、面白そうが半分、後の半分は目的が一緒だったってだけ。

 でもそれは些細なこと、こうやって彼のそばにいるとね。
暖かくなるのよ。
勇気を出して良かったって、彼の思いを汲み取って実行して良かったって、頑張って正解だったって、思えるのよ。
これって凄いことよね。

 人って自分が有利に立ちたいばっかりに、踏み躙ったり、蹴落としたり、ダメだって分かっていても、しちゃう時ってあるわよね。
案外簡単に地の底に落ちる事ができちゃうの。
そして、良いことをするのって、物凄い労力がいるわ。
生半可なことじゃ返り討ちにされちゃうもの。
己自身を磨く、とても痛いことだわ。
だからこそとても美しく輝けるの。

 そう歯を食いしばって血の汗を流して、皆が一つになったから、此処まで来れたのよ。
敵の思惑を見抜けなかったアタシ達は、術中にはまり伝説の剣が奪われ全てが地上へと落ちてしまった。
モンスターが狂暴になり敵が蔓延り、多くの犠牲者が出た。

「ほら、気付かなくて? 何時の間にか、理由なんかいらないほど、皆共にいたい、失いたくない存在になっているでしょう?」

 最後の希望とか勇者ちゃんを守る使命とか自分自身のためだとか、はじめは一杯言い訳があったのよ。
でも今はね。
彼が多く助けてくれたから人間だもの完璧には無理だったけれど、前を向く勇気が湧いている。
ねぇ、アタシ達が希望を失わずに済んでいるのは、何故かしら?
ほら、答えはもう目の前にあるじゃない。

「だから、貴方もちゃんと自覚しちゃいなさい」
 シルビアはウインクを男に飛ばし、投げキッスを送る。
キッカケはあげた、後は自覚するのみである。

 勇者の盾とか、償いとか、雁字搦めにならずにリラックス、リラックスよん。

 END