黙々と歩いていたエイトが急に立ち止る。
「よし、この辺でちょっと休憩しよう」
振り返りながらそう言った。
「休憩でがすか?」
「うん、結構歩いたし疲れたんじゃないかな?」
この辺りだと川も近いしと、辺りを見渡す。
「まだ行けるわよ? 平坦な道が多かったし」
まだまだ平気だとゼシカは主張した。
「無理はよくないよ。それに今は闇雲に行っても体力の無駄だしね」
漠然とした情報しかない今、急いでも致し方ない。
「賛成だね」
何かを悟ったように、その辺に居ると言い、ククールは片手を上げて近くの切り株に腰を降ろした。
「だらし無いわね! 一発言ってやるわ」
自分の意見が通らずに少しイライラしながらゼシカはククールの方へ、ズカズカと歩いて行った。
その様子を見て少々苦笑いが漏れる。
ヤンガスは水を汲みに行くと言って駆け出して行った。
それを見送った後、エイトはガサガサと袋から地図を取り出す。
「今、後どれぐらいじゃ?」
馬車の上からトロデが聞く。
「魔物の種類が変わってきました。目的地はもうすぐかと…」
地図から目を外し、トロデの方を向き答えた。
「なら、日が沈む前に着くんじゃな」
「恐らく」
「その地に着いたら珍しい食べ物と酒を頼むぞ」
「はい」
エイトがそう言うと機嫌の良さそうな鼻歌が聞こえてきた。
エイトは見晴らしのいい場所に立ち、この辺りの地形と地図を見比べる。
悩んでいると暫くして冷たい息が顔に当たる。
「姫様!?」
荷車から開放されたミーティアがエイトの持っている地図に覗き込むような形で顔を近づけていた。
「…えーとですね」
ほんの少し照れながら、ミーティアに通って来た道程を地図で示した。
「恐らく今はこの当たりにいます」
少し苦笑い気味の表情を作る。
実は一応指した地図上の現在地は不確かで自信がない。
だから、早い休憩を入れたのだ。
姫は周りと地図を見比べて軽く首を傾げる。
(ミーティア様も道を把握するのが苦手だよね)
そう思っていたら、ミーティアは何かを見つけたのか何処か嬉しそうに袖を引っ張られた。
顔を上げた先に小さく何かが映る。
もしかしてっと地図と見比べて、目が輝く。
「姫様、ありがとうございます!」
この道で間違っていないという確信が持てて嬉しくて顔が綻ぶ。
ミーティアも嬉しそうにヒヒンと鳴いた。
「兄貴ー!」
ヤンガスが水を汲んで着てくれたみたいだ。
「兄貴! 川に水汲みに行きやしたら向こうの方に町が見えたでがす」
もう目と鼻の先に目的地がある。
「そのようだね」
せっかく水汲みに言ってくれたが、今回は先に進んだ方が効率的だ。
さて、どうしようかと悩む。
「ヒヒン」
姫は一回鳴いてから馬車の方をみた。
「えっ! しかし…」
エイトが反論しようとするとカカッと足で地面を削る。
それを見て小さく溜息をつき了承する。
案外強情だ。
エイトはヤンガスの方を向いた。
「悪いけど…その水は馬車に乗せてくれる?」
「わかったでがす!」
リズム良く持って馬車の方へ走って行った。
「重くなりますよ?」
ミーティアの方を見て言うと、顔を上げ鼻を鳴らした。
その姿が自信ありげに見えてエイトも笑みを浮かべる。
「…では、着きましたらその水で綺麗に致しますね」
そういうとまたヒヒンと嬉しそうに鳴いた。
どこと無くエイト自身も嬉しくなる。
「ごめん。行こう!」
エイトが皆に声をかけると切り株で寛いでいたトロデがいち早く反応する。
「なんじゃ? もう出発か?」
「はい」
申し訳ありませんと一礼して、御者の位置に誘導する。
「エイト! 道に迷ったって本当?」
ゼシカが駆け寄り興味津々に聞いてきた。
「え?」
「ククールが絶対そうだって言うから」
「じゃなきゃ、中途半端に休憩取らないだろ!」
すごく自信満々だ。
確かに道に自信はなかったが全然見当ハズレにいたとも思っていない。
「う~ん。半分アタリで半分ハズレということにしておこう」
クスリと笑って、先を急ごうとばかりに歩き出した。
「どういう意味か教えなさーい!!」
逃げたら追い掛けられた。
(たまにはこういうのも良いね)
意味なくそう思った。