Lv.2:初めて死んだ。

「今日もボロボロだねー。一泊6Gだよ」
 顔なじみになりつつある宿屋の女将に苦笑いされつつ、貰ったものと魔物と戦うことで得たお金で払う。
連日ラダトームの町周辺で修行の日々だ。
この宿はサービスが良好だが格安で泊まれる。言うなれば、城から援助金を貰い経営している宿だ。
格安の条件は竜王を討伐するために利用すると言えばいい。
先日、その宣言をして、その証を貰い受けたのだ。
それを利用する馬鹿な奴が出てこないわけではないが、逐一王への報告があるこの宿を不正に使うのは本当の馬鹿だろう。

「これは時間がかかりそうだ」
 何泊目か忘れた数を過ごしつつ溜め息をつく。
一日に倒せる敵の数が増えてきて、手応えがないわけではない。
「少し遠出するか…」
 ベッドにごろりと横になり目を瞑る。
ラダトームの町から離れると、相手する敵は強いモンスターが多くなる。
しかし、近場の【スライム】ばかりでは強くなれないのも事実。
徐々に赤字だった宿代が黒字になってきたのだ。チャンスは今かもしれない。

 脳裏に地図を思い描く、ラダトーム城の北北西にはロトの洞窟がある。
そこにロトの血を引きし者が向かえば何かあるらしい。そこへ行くのも一つの手だろう。
そして、もう一つ。
ガライと言う独立した町がラダトーム城から北西、海側に沿って山を越えたところにある。
そこまでの長い道のりを行く自信はまだない。
この二択なら、ロトの洞窟へ向かおう。
そう心に決め眠りにつく。

 次の朝、街の周辺から少し離れ、山を迂回した裏手に回りまだ行っていない場所へと足を運ぶ。
実のところに少し油断していた。
会う敵はスライムが多く、強くても【ドラキー】——顔のでかい蝙蝠のようなモンスター——であった。

「ゴースト!?」
 振り返ると奴はいた。黄色いお化けのモンスター【ゴースト】である。ただの攻撃が地味に痛い。
多くの【スライム】との戦いで傷ついていた己にとって致命的であった。
逃げようとするが、回り込まれてしまう。避けることも攻撃することももはや叶わない。
命の灯火が消える瞬間、視界が赤に染まる。

「………俺は」
 死を覚悟した。
町の人に『死なせたくないものだ』と言われていたのに、こんな城の近くで命を落とすなんて、浅はかだったのだろう。
「全く何事だ」
 悔いている時に聞こえた第三者の声。
思考を停止し辺りを見渡す。どうやら見慣れたお城の一角。
この地はあの世ではなかったようだ。
「ここは…」
「城内の休息室だ。お前は王の命により、今一度、機会を与えられた。心して挑めよ」
 第三者の近衛兵はそう言い休息室を後にした。
重い空気から脱し、溜息をつき再び横になる。目を閉じ、自己の身体を確かめる。
疲労はあるものの致命的な傷は癒えており、明日にでも旅立つことができる状態であった。
助けられた。偶然にも気を失うだけで生きていられたが、これがなければ死んでいた。
王から貰った竜王討伐を目的している証明書『帰還の御守り』——転移魔法の応用で、生命の危機に陥ると自動的に城に戻るシステムになっている。

「まさか所持金の半分を取られるとは…」
 出発時に謁見の間に向かうと、叱咤とともに治療費を取られたのだ。
銅の剣を買うと言う目標の金額がまた遠のく。
無茶をせず、もう二度と失態はするまいと誓う。

 アレフLv.2は勇気と無謀の差を知った。