No.08:虹の雫。

「雨と太陽が合わさるとき虹の橋ができる」
 古い言い伝え。
これはロトがこの地に降りる前からある言葉らしい。
それに従いロトは賢者に杖と石を託したと言う。
「ついでじゃ、これを元あった場所に返しておけ」
 投げ渡されたのは太陽の石。
扱いが雑だな。
国宝級ではないのかと思うが、それを言うと追い出されかねないので、言葉を飲み込み、用件だけを伝える。
「そうか。ロトが初めではなかったのか」
「この地に古来より伝説はある。その伝説の勇者に准える程の強さ。それを称してロトと呼ぶ。一番有名なのがそなたの言うそやつだがな」
 不器用な口調で告げる。
対応の悪さは相変わらずのようだ。
「神話になる程の大昔の言い伝えに則ったと言えば、分かりやすいかのう」
 賢者の話をまとめると勇者ロトの名は古い言い伝えに沿ったものらしい。
伝説になるためにここに舞い降りたとでも言うのだろうか。
やはり本当に伝説の人だったとでも言うのだろうか。

「伝説の一人歩きか」
「そなたも何れそうなる。現に国を出るのだろう?」
「まぁ、俺自身に被害が及ばなければどうだっていい」
 物語が誇張されて作られても、この国から出て行くつもりだから、これ以上知られることもないだろう。
そこまで考えたとき、ふと『同じ』だったのではないかと思った。
思い出すはガライの歌。
悪を滅ぼす力はそのときは希望である。
しかし、その後は…。
そこまで考えてなぜか、海を越えた理由がとても悲しいものだったのではないかと思う。
「あ、ロトも関わりを絶ったのか」
「そうだと思うのならそうだろうて」
 この賢者は一応質問には答えてくれるが全てが投げやりだ。
答えてくれるのは恐らく、己がロトの印を持っているからに過ぎないそんな気がする。
ふと、雨の祠にいた賢者の言葉を思い出した。
「なぁ、竜王はどう言った存在なんだ?」
 討伐前は多くを語ることを拒否した三賢者。
その裏には己への精神的配慮がもしかしてあったのではないか。
それが勇者ロトの本質へ繋がる鍵ではないだろうか。
「知ったところでそなたには何もできん。ただ待つだけの身、運命なんぞ大それたことは言わん。たまたま成し遂げたのが、そなただっただけじゃ。それでも知りたいのなら今一度、奴の根城へ行くがいい」
 突き放すように言いそして例のごとく祠の外へ弾き出された。
いや、その呪文——バシルーラは辞めてもらいたい。
心臓に悪い。
姫と一緒にいても御構い無しとはこれいかに。

「アレフ様、やはり重荷ですか?」
 リムルダールの町へ引き返している途中、ローラ姫はキュッと眉を顰めて言葉苦しそうに尋ねた。
「え?」
 何のことかわからずに聞き返す。
「アレフ様は竜王を、世界の脅威を倒してくださった英雄です。誰もが成し得なかった偉業をたった一人で成し遂げました。この価値は国を挙げて評価されるべきものです」
 それこそ、成果が出ない不甲斐ない王よりも、平和へ導いた勇者が王となる資格を得るに値する。
それ程の価値があるものである。
何度力説しようが、どこか実感の薄い反応となっていることにローラはヤキモキする。
「ですが、それが重荷であるのでしたら、私ローラは…」
「待ってください。確かに成し遂げた大きさに驚いてますが…っ!」
 途中まで言いかけたが、魔物が動く気配を感じとる。
「下がってください!」
 現れた【リカントマムル】にとっさにラリホーの呪文を唱えて眠らす。
そのまま永眠してもらったが攻撃手段を持たない人にとって、数が減ったが未だに脅威である。
これを見ると本当に己は竜王を倒したのか気になるものである。
「外は危険です。先にリムルダールに戻りましょう」
 話を中断させて、帰りを急ぐ。
空は雨が降りそうな嫌な天気であった。
まるで空が虹を求めているように思えた。

 No.08、暗雲の空。